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キヤノンのスクラムなぜ強い? PR山路泰生が明かす「高校生のよう」な背景

2016.09.30

キヤノン10年目のプロップ、山路泰生(撮影:松本かおり)

 日本最高峰のトップリーグで今季ここまで1勝と勝ち星に恵まれていないキヤノンだが、スクラムでは相応の手応えを示している。
 スーパーラグビーは南アフリカのブルズで選手、コーチとして活躍したギデオン・レンシングFWコーチは着任2季目。スクラム重視の指導が実を結んでいる。
 前年度の6位以上の成績を目指すのは、最前列中央のHOに入る庭井祐輔新主将。「キースさん」ことレンシングFWコーチのコーチングについて、こう証言する。
「すごく、シンプルなことを教えてくれています」
 9月2日、東京・町田市立陸上競技場の第2節では、ヤマハに応戦する。元日本代表PRの長谷川慎FWコーチが作り上げた、HOを頂点にした三角形状のスクラムには序盤こそ苦しんだ。しかし中盤以降は、フロントロー同士での間合いを整えるなどして形勢逆転。16−35と敗れたが、その一戦を観た他チームの選手から警戒されることとなった。
 続く10日には神奈川・日産スタジアムで、前年度準優勝の東芝と19−21と互角の勝負を繰り広げる。ラストワンプレーの自軍ボールスクラムこそターンオーバーを喫したが、それまではリーグ屈指とされるパックとつばぜり合いを演じた。戸田京介レフリーの意図を察し、対面と掴み合う際にプレッシャーをかけるタイミングをやや遅らせたか。
「あの3番の方…。そう、山路さんです。強かったです」
 こう振り返ったのは、東芝のHOに入った森太志。春に日本代表デビューを果たした28歳は、対する背番号3の名前を挙げた。
「それ、めちゃめちゃ嬉しいんですよ。キヤノンがスクラム強くなった、と言ってもらうの」
 当の本人、山路泰生は快く応じる。昨季は3試合で合計81分のみの出場に終わった身長180センチ、体重108キロの31歳は、今季、開幕から全試合で先発出場中。右PRの位置から中央方向へ上半身をせり上げ、相手HOを手こずらせている。
 キヤノンはこれまで、ヤマハの長谷川FWコーチ、サントリーで長谷川とともにプレーした元日本代表PRの中村直人氏などから薫陶を受けてきている。それらの歴史を肌で知る山路は、「キースさん」との二人三脚をこんなふうに語っていた。
「これまでいろんな人がスクラムに関わってくれて、今回はキースさんが…。練習はむちゃくちゃ、きついですよ。高校生のやるような基本を延々と。ベーシックなことを、ずーっとやり続けています。パッとやってパッと終わり…じゃ、ないんです。練習メニューはいつも一緒。フロントローだけじゃなく、後ろのポジションの選手も、そのきついことをずーっとやってきている。それで、固まって来た。ヤマハがスクラムにかける時間が長いと聞きましたが、僕らもそれ以上にやっている自信はあります」
 這い上がって来た。学生時代は長崎南山高を経て、関東大学リーグ戦3部の神奈川大(神大)でプレー。練習のない時は生活費や学費を稼ぐべく、近隣の「ローソン」でアルバイト。寮と「ローソン」の間にある日産スタジアムの前を、「いつもバイクで通っていた」という。
「東芝と日産で試合をした時は『なんでこんなところでラグビーしてるんだろ』と。会場には神大の人も応援に来てくれました」
 一時は東芝入りを希望も、在学中の交通事故で叶わず。当時は本格的な強化をしていなかったキヤノンへ入社し、いまに至る。瓜生靖治スカウトが各大学から有望なフロントローを入部させるなか、スクラムへのこだわりで最前線に生き残る。
 10月2日、山梨中銀スタジアム。第5節では、ここまで全勝のサントリーと激突する。猛攻撃で開幕4連勝中という好調な相手を前に、スクラムへのフォーカスは必須だろう。山路は「勝ちにつながるスクラムを組みたい」と意気込んでいる。
(文:向 風見也)
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