日本の大学ラグビー界で1980年代の「モスグリーン旋風」を起こした大東大はここ数年、当時さながらの魅力を示している。留学生の突破力を活かした攻めで、前年度の大学選手権では16シーズンぶりの4強入りを果たした。
今季をラストイヤーとする4年生には1年時からレギュラーとなった選手が多い。そのなかでもキーマンとされるのが、SO川向瑛主将、SH小山大輝、WTBホセア・サウマキだ。勝負の年を過ごす。
9月18日、埼玉・熊谷ラグビー場。所属する関東大学リーグ戦1部の2試合目を迎えた。上位4チームが大学選手権に進める戦いにあって、4シーズンぶりに2部から昇格の関東学院大を42−10で制した。開幕2連勝である。
もっともこの日の内容について、SO川向主将は不満足だ。
「ミスも多かった。それに、ディフェンスですよね…」
例えば、先制したのちにやや足踏みして迎えた前半25分。自陣ゴール前へじりじり押し込まれ、7−5と迫られた。攻守で相手の持ち味を引き出し、課題の守備組織でも綻びを覗かせたか。リーダーは言う。
「これからもっと上に行くには、もっと修正しないと。まずは1対1(タックル)で勝つ。そうすればもっと守りやすくなる。強い相手とやった時に『ああしておけばよかった』と後悔しないように、練習で改善したい」
消化不良を自覚するゲームにあって、気を吐いたのがSH小山だった。
前半終了間際、自陣10メートル線付近中央でスクラムを得る。出されたボールを拾い上げるや、一気に駆け上がる。追いすがるタックラーをハンドオフでいなし、約50メートルの独走トライを決めた。
「ごっつぁんと言えば、ごっつぁんです。後ろに味方のサポートもついてきてくれていたので(相手の防御の注意力が散った)。あとは、自分の得意なものを出した」
ここでスコアは21−5。鋭利なランを持ち味とするSH小山は、それでも、悲願の日本一に向け手綱を締める。
「(スコアを)取れるところでもっと取り切らないといけない。ディフェンスでも引いてしまって突破される、弱気の部分もある。チームはまだ完璧に仕上がってはいない。まだまだ、これから、です」
強力ランナーのWTBサウマキは、外国人枠やチーム戦略の関係で後半から出場。試合終了間際に持ち前のランでトライを奪ったが、試合を通じて苦しんだ。関東学院大の徹底マークに遭ったからだ。
球を持てば複数人に囲まれた。相手のCTB吉良友嘉いわく、「必ず2人で…」。それでも身長187センチ、体重100キロの男は前進できてしまうのだが、3人の低空タックルに襲われることもあった。
「びっくりした、あれ!(雨に見舞われて)芝が滑るから、低いタックルは怖い。プレッシャーがあった」
いかなる状況でもボールを触りたがるWTBサウマキの気持ちを察し、SO川向主将は首脳陣や仲間にある「相談」を持ちかけている。
「彼も後半から出ていて、もっとボールが欲しいと思っている。だから(マークが厳しくて)抜けないとわかっていても、あえてパスする時があるんです。2発、3発と行けば、彼も落ち着いてくれる。逆に、マークされているからといってパスをしないと、爆発してしまう…。ここは主将として、SOとして、考えています。でなきゃ、あんなシンプルな渡し方、しないです!」
いかに空いたスペースを攻略するかというラグビーの原則を踏まえると、それは驚きの内容かもしれなかった。同じ釜の飯を食ってきた仲間同士の空間では、その驚きの内容が正解なのだ。
10月2日には、栃木・足利陸上競技場で日大とぶつかる。配慮という名の信頼を勝ち取っているWTBサウマキは、「これからもレベルアップできる」と次を見据える。この先、最上級生たちはどんな日々を過ごすのだろうか。
(文:向 風見也)