ラグビーリパブリック

複合機ダービー2016の実相とは。リコーの「ファイト」にキヤノン屈す。

2016.09.18

リコーの松橋周平。新人ながら開幕から8番を着続け、キヤノン戦はフル出場で活躍(撮影:井田新輔)

<ジャパンラグビートップリーグ 2016−17 第4節>
キヤノン 20−25 リコー
(2016年9月16日/東京・秩父宮ラグビー場)
 5点差を追う赤い男が、最後の反撃に出る。5点差を守る黒い男が、ゴールライン上で対抗する。同業者同士の合戦、最後の攻防。観客席からは、両軍の親会社の社名が響く。
 ケリをつけたのはリコー所属、LOマイケル・ブロードハースト。ニュージーランド出身で、日本代表入りも果たしたプロ選手である。
 キヤノンの衝突をゴールポスト下で耐えるさなか、自分の前に突っ込んできた男を抱え込み、インゴールで羽交い絞めにする。球を地面に付けさせず、ノーサイドを迎えた。
 本人が「皆でファイトできた」と笑う一方、敗れたHO庭井祐輔主将はうなだれる。
 判定への苦言ではない。勝ち試合を落とした直後の、放心状態の吐露。
「私の解釈では、相手が倒れ込んでボールが出せなかったように…」
 遡ればキックオフ早々、キヤノンは優位性のありかを見出していた。
 1分、敵陣ほぼ真ん中のスクラム。相手の反則を誘い、CTB三友良平のペナルティゴールで先制した。
 過去2戦でスクラム自慢の上位陣と伍したキヤノンは、この日もその塊に自信を持った。「まぁー、強かったです」とは、最前列で組んだリコーのHO森雄基だ。
 攻防の起点で明確な手応えをつかんだかもしれぬキヤノンは、前半38分、見せ場を迎える。
 敵陣ゴール前左でリコーが反則すると、HO庭井は迷わずスクラムを選択。ヒット。右PRの山路泰生の組む側で相手が崩れ、さらにリコーがペナライズされる。
「次、落ちたら、ペナルティトライ(即キヤノンの得点)だよ」
 戸田京介レフリーがそう言ったのを聞き、PR山路は「スクラムトライを」。右肩上がりに押す。後ろに立ったSH天野寿紀が、そのままインゴールを割った。コンバージョン成功もあり、13−8とする。後半4分の加点で、キヤノンは20−8とリード。そのまま試合を締めそうだった。
 違った。ビハインドを追うリコーは「アタックでもディフェンスでも前へ」とNO8松橋周平。LOロトアヘア ポヒヴァ大和、CTBアマナキ・ロトアヘアと、途中出場組がぐいと推進。かたやキヤノンのリザーブSHの高城良太は、「テンポアップしたかったけど、皆、足が止まっていて…」。18分には、その圧力を受けたSH高城のタッチキックが伸びずに自陣で危機を招く。単騎の直進を耐えきれず、FL柳川大樹らに20−18と迫られる。そして34分、NO8松橋のトライなどで20−25とされた。
 リコーはその間、問題のスクラムも対応する。HO庭井とPR山路に挟み撃ちにされていたHO森は、後ろのLO陣に「HO寄りに組んで」と声かけ。防波堤を作っていた。
 キヤノンはリードしていた前半も、実は失敗に泣いていた。それこそ敵陣深い位置でのスクラムからフェーズを重ねていた前半23分頃も、右大外のスペースでパスの出し手と受け手の呼吸が乱れ、トライを逃した。
 その他いくらかの失策を噛みしめ、HO庭井主将はこうも話した。
「リコーさんが勝ったというより、キヤノンが負けた試合だと思います」
 その向こう側でリコーが踏ん張り、ダービー戦を盛り上げたのだ。
(文:向 風見也)
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