大学選手権で通算最多となる15回の優勝を誇る早大は、9月17日、所属する関東大学対抗戦Aの初戦を迎える。
西武新宿線は上井草駅近くにあるクラブハウス。ビュッフェ形式の寮での夕食を控え、岩手発の新人が充実感を口にする。
「すごくいい環境でやらせてもらっていて、自分自身も成長している実感があります」
梅津友喜。身長177センチ、体重83キロのFBだ。いまの早大が組織守備を重視していることを受け、こうも続けた。
「キックのケア、味方が抜かれた場所のカバーを意識します。あとは、他のポジションの選手と声をかけ合いたいです。アタックでも言えるんですけど、ボールを持っていない時にどう動くかは大事になる。それを大学の試合を通じて、実感することが多いです」
今季のチームでは、神奈川・桐蔭学園高出身で20歳以下日本代表のSH齋藤直人、昨季の全国高校ラグビー大会で優勝した大阪・東海大仰星高のSO岸岡智樹ら1年生BKのレギュラー候補が目立つ。グラウンド最後尾のFBも、大胆に駆けるルーキーが担う。
入学後初の公式戦となった春季大会でも、自陣から隙間をえぐる走りを披露。「アタックは、結構、自信があります」。もっともその心境は、こんなふうだったという。
「実際は、どきどきしています。ただ、不安を感じていたらいいプレーにつながらないので…」
サッカー少年だった。しかし、楕円球愛好家の家族にあって、ずっとラグビーには親しんできていた。兄の和司が出場して全国大会行きを決めた県の高校大会決勝に感動し、転向を決めた。中学3年時に矢巾レッドファイヤーズでプレーを始め、兄と同じ黒沢尻北高に入学。大阪・花園ラグビー場での全国大会には、兄弟で挑むことができた。
早大進学のきっかけは、幼少期の記憶だった。
2000年代の早大は、5度の大学日本一に輝いていた。当時の様子を「テレビをつけたら強いワセダ。それを観て、あのジャージィを着たいと思いました」と振り返る梅津は、自己推薦制度を利して受験をした。
クラブはかねてリクルーティングに力を入れ始めていたが、「僕は、(入学試験を)受けて下さいといったようなこと(スカウト)はなくて。自分で受験をした感じです」。今季から就任した山下大悟新監督にとっては、発掘された才能だったろう。
「最初に(主力チームへ)呼ばれた時は嬉しかったんですけど、高いレベルでやっていけるのかという不安もありました。でもいまは、1年生も多くてコミュニケーションが取れて、すごくやりやすいです」
周囲から「アカクロ」と呼ばれる早大のジャージィには、特別な思いを抱く。正FBがつける背番号15は、五郎丸歩、藤田慶和と、昨秋のワールドカップイングランド大会に出場した2人のメンバーが袖を通した1枚だ。今季の意気込みを問われた梅津は、その2人の名を挙げこう語っていた。
「アカクロの15番を、着続ける。五郎丸さん、藤田さんのような有名な選手も着ていたものなので、責任と自覚が求められる。…ただ、気負わずに、自分らしくやっていきたいです。1年生だからこそ思い切りプレーできるという部分もあると思うので、それも、意識します」
山下監督は、「梅ちゃん? 梅ちゃん、抜群です。足もめちゃくちゃ速い。1人で何かを打開しようとする。動じない選手を、僕は選んでゆく」。8季ぶりの日本一を目指すうえで、齋藤、岸岡らと合わせて重用する構えだ。
内なる緊張感を悟られぬ「強気」のパフォーマンスに、注目が集まる。
(文:向 風見也)