お尻、大きいですね。そう問われると、太めの眉と目尻を下げ、ずしっとした腰まわりを見つめる。
「土台作りをトレーニングコーチと一緒にやっているので。でも、自分としてはまだまだ足らないです」
熊本県八代市出身、元田翔太。ニックネームは「もっちゃん」。大学選手権7連覇中の帝京大で、分厚い選手層の壁をぶち破らんとしている。身長178センチ、体重88キロと上背こそないが、低い重心で細やかな脚の刻みで守備網を突破する。
「今後もAチームに劣らないプレーをしていきたいと思います。まだ、当たった時の身体の弱さもある。それにスキルも未熟。それらを磨いて、A チームに定着したいです」
9月11日、本拠地の東京・帝京大百草グラウンド。加盟する関東大学対抗戦Aの初戦を迎えた。昇格したての成蹊大が相手だ。
9日にニュージーランド遠征から戻って来たばかりのクラブは、日本代表のSO松田力也が終日ベンチを温めるなど大幅にメンバーを入れ替えながら、91−0で白星を得た。ここで気を吐いた1人が、元田だった。背番号13をつけ、CTBとFBに入った。
「果たしたい目標があったので、それを果たせてよかったです。まずは痛いところで身体を張る。そして、普通に考えたらしんどいというところで走り切る。出し切る、と」
前半終了間際の38分。自陣中盤へキックが飛ぶ。捕球したSO矢沢蒼へ、「もっちゃん」が「放れ! 放れ!」と球を呼び込む。「強気で、持っているものを出し切ろう」。パスを受けるや、持ち味の仕掛けで1人、また1人と、網を張るタックラーをかわす。サポートについたFL申賢志へバトンを渡し、最後はFL古田凌がインゴールを割った。
36−0のスコアでハーフタイムを迎えると、後半5分には自らトライを決めた。50−0。35分にも強靭な足腰でスコアを決めた3年生は、岩出雅之監督の選ぶ「きょうのMVP」に輝いたのだった。
「自分の持ち味はステップワーク。仕掛けつつ、周りも活かしつつ、というのが目標です。それが、少しは体現できたと思います」
4月14日、故郷が大きな地震に襲われた。東京にいた元田も、地元へ問い合わせる。自宅近辺はさておき、友人の実家が甚大な被害をこうむったと聞く。「(帝京大の)熊本のメンバーで帰って、力になりたい」。しかし、思いとどまった。
「ラグビーと直接は関係ないかもしれないのですけど…。監督からいつも言われているように、ものごとを客観的に捉える、と。いま帰るのがプラスになるのか、考えまして。自分たちがすべきことを明確にした。すぐに帰っても力になることはできない、と。色々と思うことはあったのですが…」
岩出雅之監督には、就職を考えていた熊本工高時代に「未熟なまま社会に出るより、成長してからの方がいい」と声をかけられていた。意見を聞き入れ、翻意するまでには時間がかからなかった。
まずは、学生生活とクラブ活動に専念した。「まずはここでできることを一生懸命やることが、幸せに繋がる。よく耳にする言葉ですが、(好きなことを)やりたくてもできない人がいる、と。それを思って、できることを思い切りやりました」。いましたいことよりも、いますべきことを考えた。東京に慣れてきたこともあり、上級生としての自覚も磨いた。
「下級生の時にしてもらったアプローチをいまの下級生にできるように、横の繋がり、縦の繋がりを大事にしたいと思っています。例で言いますと、前まで2年生がやっていた食堂での仕事を、いま、4年生がやるようになりました。そうすることで2年生の余裕が生まれ、2年生のうちからチーム全体のことを意識し始めている。そういうのを見る自分としても、来年を見据えるうえで参考になっています」
震災発生から約1か月後、故郷の両親や友達に出会った。「自分が思っていた以上に、元気で。そこが故郷の強さ」。己が体験したことを噛みしめ、言葉にする時、「逆に、元気をもらった」と口にするのである。
八代市はどんなところかと聞かれると、「大自然にあふれた、皆さんが連想する田舎です。でも、大好きです」。野性味あるランは、控えチームの試合を視察するトップリーグのスカウトにも注目され始めている。