<ジャパンラグビートップリーグ 2016−17 第3節>
サントリー 23−17 リコー
(2016年9月10日/東京・秩父宮ラグビー場)
日本のラグビーファンは、イタリア製寝具の名前を何度も耳にする。「マニフレックス社協賛のテレビジョン・マッチ・オフィシャルを…」。レフリーが目視しきれなかった反則の有無をビデオ判定する措置で、プレーが一時停止するのだ。
この日も然りだ。23−14と9点差を追うリコーが、敵陣22メートルエリアで好機を得た場面。密集の周りで縦、縦と突き、一転、左大外へ回す。FB高平拓弥がおとりの背後を抜け出し、インゴールを割る。「トライ!」のアナウンスが響く。
その、瞬間だった。
おとり役がサントリーの守備を妨害していたかを確認する、略して「TMO」が発動する。場内の興奮度が高まる代わり、黒と黄色の衣服がかすかに交わる動画が確認された。
得点は帳消しになった。リコーは試合終了間際にどうにかペナルティキックを獲得し、ゴールを決める。7点差以内に縮めてボーナスポイント獲得も、白星は逃した。
「接戦に持ち込めばチャンスはあると思っていたのですが…」
こう語るは、敗れた神鳥裕之監督。過去5季中3季が順位2ケタ台と苦しむなか、鋭い守備網の飛び出しを意識。前年度9位もそれ以前は上位を争っていたサントリーの「アタッキングラグビー」を防ぎにかかった。
攻めても「今回はゴーフォワード」と新人のNO8松橋周平。7分に敵陣22メートル線付近左のラインアウトからSOタマティ・エリソンが、続く13分は似た位置でのスクラムからのラック連取の後にNO8松橋がトライを奪う。3−14。その後もWTB小松大祐が、捕球後のカウンターで細かい足の刻みを披露。13−14のスコアで後半を迎えたサントリーのSH流大主将は、こう認めた。
「意図した前半ではなかった」
抜け出した走者がしばし防御に絡まれていた後の勝者だったが、意地を示したからこそ勝ったのも確かだ。
日本代表のCTB松島幸太朗は、序盤に股関節を痛めドクターを招くも、立ち上がって数分後の前半30分頃、SH流主将の速攻へ並走する。突破を繰り出した。守っても試合を通じ、リコー陣営に負けじと、ランナーの持つボールへもへばりつく。
サントリーは、リコーの組織がかすかに乱れた28分に、SO小野晃征のキックパスとWTB竹下祥平の飛び込みなどで23点目を奪取。あの件の直後には、敵陣の深い位置でCTB松島が途中出場のSOコリン・ボークにタックル。落球を誘い、述懐。
「(球を触らせる)時間をあげるのは、リスクしかない。(接点で)球出しを遅らせよう、とか、考えました」
そう。この夜は牙を向く挑戦者と苦しむ強者が激突した。非日常空間に最適な構図で、昨秋のワールドカップがブームを呼ぶ以前からあった、日本楕円球界の物語である。
しかし、正確なレフリングと場内演出のすれ違いが、点数上の勝負を分けてしまった。一般的に、この場合は何を言っても損をする。両軍とも、「幸運」か「ノーコメント」といった類の発言を重ねた。
同会場で先にあったクボタ対豊田自動織機の第1試合も逆転劇だったが、あの時イタリア製寝具の名を聞いた入場者は「5167人」のみだった。
(文:向 風見也)