(撮影/松本かおり)
立ち上がりに圧倒した青いジャージーだったけれど、どれもこれも押せたわけではなかった。赤いジャージーがプライドで押し返す。スクラムは生きていた。
9月2日に東京・町田市立野津田公園陸上競技場でおこなわれたキヤノン×ヤマハ発動機。駆けつけたファンは1159人と寂しかったけれど、青と赤のパックがぶつかり、組み合い、押し合うシーンにスタジアムは沸いた。35-16とヤマハが快勝し、ボーナスポイントを得る展開も、スクラムの時間には両チームが熱を放った。
開始4分のファーストスクラムから立て続けに前に出たのはヤマハだった。ひとかたまりになった8人がグサッ。グイーッと押し込む。キヤノンの2度のコラプシングを誘い、その後のPKからの攻撃を、いずれもトライに結びつけた。
しかし、勢いはそのまま継続され続けなかった。そこかにラグビーの奥深さがある。前半20分前後のスクラムで、青いジャージーがアーリープッシュの反則を受けたのを境に情勢が変わった。
ジュビロのFL三村勇飛丸主将が言った。
「ボールを投入する前に力をかけている、とコーションがありました。それで前へ出る意識が弱まってしまった」
「キヤノンはトップリーグの中でスクラムの強さをウリにしているチーム。(ヤマハとの)こだわり合いに注目していたし、(終始パナソニックを圧倒し続けた)前節のような試合にはならないと思っていました」
それでも「前半最初の3つのスクラムを押したのはよかった」と選手たちを愛でた清宮克幸監督は、スクラムのやり合いが見られる80分になると思っていたと話した。
スクラム番長こと長谷川慎コーチも、「(キヤノンが)スクラムを押されなかっただけでスタンドが沸くシーンもありましたね。そこに注目してくれているのは嬉しいんだけど、スクラムは(どちらかが一方的に勝ち続けられる)そういうもんとちゃいまっせ、という感覚もあります」と独特の言い回しで試合を振り返った。
ファンの視線が局地戦に向けられている現状に目を細める同コーチは、さらに言った。
「(ヤマハのスクラムも)まだ若い」
ジュビロFWを、さらなる深みに導いていきそうな予感。
キヤノンのHO庭井祐輔主将は、「ブレイクダウンで強烈なプレッシャーをかけられて手にボールがつかず、自分たちのラグビーができなかった」と3トライ差以上をつけられた試合を振り返ったものの、「学ぶことが多かった」と言った。
「前半はセットプレーでやられましたが、後半は互角以上にやれた。相手の3番は組み合った後に伸びてくるので、それに対してしっかり押そう、と。内に入ってくるので、(こちらは)1番と2番(の自分)でロックする、ふたりで壁を作って前へ出ました」
試合への準備の中で映像を見て対策を立て、実際の体感をもとに修正し、試合中に盛り返した。1番の東恩納?太も言った。
「うちも(ヤマハに負けないくらい)スクラムに時間をかけてきました。キース(ギデオン・レンシングFWコーチ)が昨年来てから、スクラムの奥深いところまで教わり、向き合う姿勢、考え方も変わった。収穫を得られた試合だったと思います」
キヤノンの3番を背負った山路泰生は今季10年目で、チーム最古参のベテランだ。その山路は、現在ヤマハで指導にあたる長谷川コーチの指導を受けたことがある。
同コーチが現職に就く前年、半年に渡ってイーグルスのFW強化に力を注いだときのことだ。
「それを知っているのは、チームで自分だけになりました。きょうは勝って恩返しをしたかったのですが、それができなくて残念でした。スクラムでは、最初から負けている気はしませんでした。(自分たちがコラプシングをとられても)落としているのは相手だと感じていたので、『相手を持ち上げてでも押そう』と声を掛け合って組みました」
山路は長谷川コーチの指導を受けているとき、同コーチから手紙をもらったことがあると言った。秋田ノーザンブレッツ戦への出場が決まったときのことだった。そこに書いてあったのは、コーチ陣、仲間からの信頼を得ることがPRにはいちばん大事で、それらを得て試合に出るからには、絶対に裏切ってはいけないということ。細かなテクニックより、それこそがスクラムを支えるスピリットと学んだ。
前節のコカ・コーラ戦に続き、開幕から2戦続けて先発の3番を務めている。スクラム勝負のヤマハ戦とのメンバー表に自身の名があると知ったときには、スクラム職人としての誇りと責任を感じた。
スクラムは生きている。そこにプライドを持って生きる人が各チームに何人もいる。
だからラグビーの深みには味がある。