金メダルを目指すウィルチェアーラグビー日本代表。(撮影/松本かおり)
初めて目の前で見た。思っていた以上の激しさとテクニックに驚いた。8月28日、トップリーガー3人がリオ・パラリンピック(9月7日〜)に向けて合宿を実施しているウィルチェアーラグビー日本代表チームのもとを訪れた。
今回渋谷区内のスポーツ施設を訪れた川村慎(NEC)、宮本啓希(サントリー)、伊藤真(東芝)の3人をはじめ、トップリーガーたちで構成する日本ラグビーフットボール選手会(代表理事:廣瀬俊朗)は、5月から6月にかけてチャリティーオークションを実施。そこで集まった資金の一部を、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟に寄付をした。その縁で、大舞台へ向けて強化、調整を進める代表チームのもとを表敬訪問し、激励の言葉を伝えるとともに交流した。
2004年のアテネ大会以降すべてのパラリンピックに出場し、2012年のロンドン大会では4位という成績を残したウィルチェアラグビー日本代表。その後世界ランキング3位にまで上昇するなど実力を高めている。今回のリオデジャネイロ大会ではメダル獲得が期待される。現地への出発を目前に控え、実戦形式の練習を重ねる同代表のトレーニングを見学した3人のトップリーガーたちは「思っていた以上に激しい。凄い迫力」と口を揃えた。
代表選手たちにメッセージを送った選手会副代表理事の川村は、「ラグビーファミリーのメンバーとしてラグビーを日本の文化として根付かせ、盛り上げたい。ぜひ一緒に」と話した。宮本は「ステップの切れ、ウラをとるタイミングなど勉強になった」と驚きを伝え、伊藤も「この体感をチームに持ち帰り、交流を続けていけたら」。ラグビーマンたちからのメッセージに対しと代表をまとめる池 透暢主将は、「(チャリティーオークションからの寄付は)気持ちのこもったものと感じました。大切に使っていきたいと思っています。恩返しできたら」とパラリンピックでの活躍を誓った。
2時間強の滞在時間中、トップリーガーたちが実際に競技用車いすに座り、競技を体感する時間もあった。基本的な操作を練習した3人は、2004年のアテネから4大会連続で大舞台に出場する仲里進らを相手に実戦形式のアタック&ディフェンスにも臨んだ。
慣れぬ操作に汗が噴き出た。ベテランの高いテクニックに翻弄され、激しい当たりに目を丸くする。そんな攻防を繰り返しているうち、3人の息が合う瞬間が訪れた。個人技を駆使して抜きにかかった仲里の行く手をがっちり阻んだのだ。3人の喜びの声が体育館に響いた。
仲里はトップリーガーと実際に対峙した感想を「さすがアスリート。上達がはやい。少ししたら(経験を重ねたら)抜かれるかもしませんね」と口にした。
「ラグビー選手は負けん気が強いし、当たることを怖がらない。屈強な体をしているのでタックルしても重かったですね。(ウィルチェアーの)世界のトップチームは大きいのですが、そういうチームと当たった感覚でした。いい機会になった」
今後も交流を続けていけたらいいとも話した。海外ではウィルチェアーラグビーのアスリートと一般の人たちがエントリーしておこなわれる大会もある。日本でもそういうことが実現できたら、この競技を広く知ってもらえる。
「ラグビーファミリーの一員としてラグビーを盛り上げたいですね。ファミリーの力を瀬に(パラリンピックで)暴れてきます。2019年(のラグビー ワールドカップ)、2020年(の東京五輪)につなげられたら」
実戦を模擬体験したトップリーガーたちにも、新たな体感が生まれていた。
「(実際にやってみると)想像以上の激しさ、楽しさでした。いつのまにか夢中になっていた」と話した川村は言葉を続けた。
「人と人が当たるというより、鉄と鉄がぶつかる衝撃が凄かったし、新たな感覚でした。ダイレクトに重さが伝わって来ました。(車いすの操作でも)簡単に抜かれたし、もっとうまく操作できるかも…と思っていたけど、思うようにいきませんでした。そんな操作を手に力が入らない方もいる中で、工夫してやられている。その凄さを実感しました。パラリンピック、応援したいですね。選手会からも、もっと(ウィルチェアーラグビーの存在を)アピールしていきたい」
肩と上腕部への負荷が凄いと言いながら、川村はさらに続けた。
「観ているときはバスケットボールに近いかなと思っていたのですが、やってみると、ラグビーとの共通点が多いと感じました。相手を抑えていい位置取りをする。スペースに入り込む。一人ひとりがチームのために仕事をする、そのスピリットも含めてラグビーに近かった。上半身の筋肉を凄く使います。下半身を怪我したときのリハビリとして考え、活動に参加することを考えてもいいかもしれませんね」
宮本も伊藤も同じ気持ちだった。
パラリンピックを観て、ウィルチェア−ラグビーに声援を。積極的に周囲にそう伝える日々が始まる。
(左から)宮本啓希、川村慎、伊藤真の3人。(撮影/松本かおり)