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パナソニック稲垣啓太が「逃がしてもらう」。豪華陣容で開く新境地とは。

2016.08.25
再び歓喜となるか。トップリーグ4連覇を目指すパナソニックの稲垣啓太
(撮影:松本かおり)
 国内屈指の背番号「1」は、リーダーとは違った立ち位置でディフェンディングチャンピオンをモチベートする。
「周りから4連覇、4連覇と言われてプレッシャーはかかると思うんですが、練習でやってきたことしか出せない。選手1人ひとりの意識を保てるよう、リーダー陣と一緒にオーガナイズができれば」
 日本最高峰のトップリーグが8月26日、東京・秩父宮ラグビー場で開幕戦を迎える。この日、ヤマハ発動機と対峙するのは3連覇中のパナソニックだ。スクラム最前列の左PRには、日本代表の稲垣啓太が入る。
 2013年度に同リーグの新人賞を獲得した稲垣は、身長183センチ、体重115キロの26歳。国際リーグのスーパーラグビーでも昨季からレベルズ、サンウルブズでプレーし、特に日本から初参戦したサンウルブズでは守備リーダーを務めた。キャリアを重ねるごとに、国際レベルのゲームでも全体を俯瞰できるようになった。
 試合中のチームのプレーを修正する自らの声に、じんわりと手応えをつかんでいる。
「自分のなかでは、リーダー的な発言ができている。それを俯瞰して観られているのも、いいですね」
 オープニングゲームでぶつかるヤマハは元日本代表PRの長谷川慎FWコーチを擁し、スクラムに誇りを持つ。FWの8人が一体となり、対面のHO方向へ圧をかける。稲垣は相手のストロングポイントに対し、「逆に、そこを抑えたら向こうには何もさせないことができる」と淡々と意気込む。
 具体策は、相手の土俵に乗らないことか。サンウルブズや日本代表でも隣同士で組むHO堀江翔太主将とともに、NO8から転向した右PRヴァル アサエリ愛の怪力を活かすという。
 最前列の3人が中心部に寄り集まるような組み方のヤマハを前に、一枚岩の形を保ちたい。
「スクラムでは、自分たちのできないことをやらない。これまでの練習で自分たちのやってきた型があるので。彼(ヴァル)であれば、純粋に真っ直ぐ組む。それをするためには自分たちがどうすればいいかを、いままで考えてきました。堀江さんや後ろの選手とコミュニケーションを取りながら、全体をオーガナイズできるようになってきている」
 チームはどんどん選手層を広げている。昨秋のワールドカップイングランド大会で日本代表だったWTB福岡堅樹(筑波大出身、開幕戦はメンバー外)、WTB/FB藤田慶和(早大出身、開幕戦はリザーブ)、筑波大4年のSO山沢拓也(開幕戦で先発)が相次ぎ加入。そんななかサンウルブズの守備組織を支えた稲垣は、パナソニックのシステムも滑らかに運用できればと思っている。
 味方と横幅の広い守備網を保つなか、お家芸のタックルを決める。そんな様子を、こうイメージする。
「仲間と連携を取って、逃がしてもらう(自分の目の前に相手ランナーを走らせ、タックルする)…。この考え方は、前までできていなかったことです。その意味では、成長できているのかな、と思います」
 特に、PR、HO、LOといったタイトファイブ勢における存在感を高めたい。
 タイトファイブ勢は黒子に徹する役割上、目の前のぶつかり合いに意識を割かれがちだ。そんななか稲垣は、周りの選手からの声を聞きながら「いま、こういう状態だから、次はこう…」と、他のタイトファイブ勢のプレーをブラッシュアップしていきたいという。
 チーム全体をけん引する堀江主将とは違った立ち位置で、チームの組織性を高める。「自分の可能性を広げるため」に楕円球を追う稲垣は、そんなミッションを抱えている。
(文:向 風見也)
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