立命館大の歴史で初めて在学中に日本代表に選ばれたFL古川聖人
立命館大出身の日本代表選手は9人いる。FL古川聖人(まさと)はその中で、唯一在学中にキャップホルダーになった。まだ2年生。1996年12月6日生まれの19歳である。
今年5月、4戦全勝で優勝したアジアチャンピオンシップ2016に抜擢された。
21日の韓国戦では先発出場。敵地仁川で60−3の快勝に貢献する。続く28日の香港戦では、後半25分にNO8テビタ・タタフ(東海大2年)と入れ替え出場。秩父宮デビューを飾り、59−17の大勝劇に加わった。
「キャップを2つもらえたのは素直にうれしいです。でも満足してはいません。それがゴールではありませんから」
この大会の日本代表は、スーパーラグビー参戦などもあり、3月にジュニア・ジャパンで参加したパシフィック・チャレンジ2016のメンバーが多く選ばれた。陰では「非正規」と言う声も上がる。それを知りながら、立命大GMとして入学や就職などマネジメントを行う高見澤篤は発言する。
「若手に経験を積ます部分があるため、そういう意見があるのは仕方ない。でも、このメンバーが2019年のワールドカップの主力になってくるはず。そう考えれば、古川が選ばれたのは価値のあることだと思います」
立命大出身者で初めてジャパンになったのは近鉄のHO中島義信(キャップ2)。今から60年以上も前である。中島は近鉄監督時代にWTB坂田好弘(現関西協会会長)らを育てる。1999、2003、2007年とワールドカップ3大会連続出場を果たすLO木曽一(同32、立命大最多)、現監督でHO出身の中林正一(同4)はともにヤマハ発動機時代に紅白のジャージーに袖を通した。現役は3人。LO谷口智昭(同12、トヨタ自動車)、CTB林泰基(同3、パナソニック)、LO宇佐美和彦(同9、キヤノン)がいる。
古川は韓国戦の後、5学年上の宇佐美に初キャップのお祝いに、本場の焼き肉に連れて行ってもらった。HO坂手淳史(パナソニック)も一緒だった。
「美味しかったですよ。先輩方にはよくしていただきました」
謝意をしっかりと表現できる。
古川の特徴はその統率力にある。
幼稚園の4歳から福岡・鞘ヶ谷ラグビースクールに通う。小学校5、6年から中学、そして東福岡高でも主将をつとめた。
高校3年時の第94回全国高校大会(2014年度)ではチームを3大会ぶり5回目の優勝に導いた。部史上最強と言われたチームの5試合の平均得点は60。その先頭にいた。
今年6月、イングランドであったU20チャンピオンシップ2016でも主将を任される。
高見澤は古川を高く評価する。
「例えばミーティングが全体と食事など規模や学年が変わりながら続く時は、上級生よりも先に手配りをして、ダラダラさせない。その指示も発言も的確なんですよね」
古川はキャプテンシーを定義する。
「大切なのは状況を見ることだと思います。チーム全員が上下に関係なく、どういう動きをしているか。一人でもあの先輩を応援したくない、と思う下級生がいると勝てません」
細かい部分にも視線を運ぶ。そして行動を起こす。グラウンドの内外でも変わらない。それは大きな信頼に変わる。
スキル的な長所はディフェンスの低さ、回数、それに伴うリロード(コンタクト後の再防戦姿勢)の速さである。178センチ、81キロと世界的な第3列としては小さいサイズをワークレイト(仕事量)で補う。
「目指す選手はいっぱいいます」
口を突くのは、マイケル・フーパー(オーストラリア代表)、金正奎(NTTコミュニケーションズ)、安藤泰洋(トヨタ自動車)、占部航典(筑波大3年)…。同じFLの先達に共通しているのは激しいタックルだ。その部分を自分の軸に据えている。
古川は立命大に感謝がある。
「高校2年の冬に脱臼した肩の手術をして、3年の春は1試合も出てないのに、僕を誘ってくれました。うれしかった」
滋賀・草津で過ごす日々は気に入っている。
「スタッフが若くて、フレンドリーだから話しやすい環境があります」
監督の中林は37歳。グラウンドで指導する主たるコーチ陣は彼より若い。
「ラグビー部寮がないのもいいです。僕は1人でいることも大切だと思っています。自分と向き合う時間がないと、客観的にどういう状況になっているかわかりませんから」
食事に関して、部と大学が協力して「アスリート食」が提供されるため、下宿生の泣き所となる栄養の偏りもない。
目下の不安は前期テストの結果だ。経済学部生として20ほどの単位認定を受けた。
「この春は遠征で2か月近く学校に行けなかった。テスト前はみんなで勉強しましたが…」
机の上の成果を気にしながら、昨年の関西3位を踏まえつつ、今年の目標を設定する。
「チームとしては関西で優勝して打倒関東を実現させたい。個人としては日本代表として認めてもらえるような存在になりたいです」
8月3日から北海道・北見で恒例の夏合宿が始まる。代表で得たものをチームに還元して、自他ともに高めあう日々が迫っている。
(文:鎮 勝也)