さらなる飛躍へ。パナソニックの布巻峻介(撮影:松本かおり)
自陣22メートルエリアで、相手のランナーを待ち構える。鋭く飛び出す。重量感あるタックルを決める。落球を誘った。
布巻峻介本人は、「んー」と、自画自賛とは無縁の表情を作る。それでも、ファンの感嘆なら導いた。
「チームとしてチョップタックル(相手に低く突き刺さるタックル)を意識していて、僕もそれを得意にしている。結果として、相手のミスを誘えてよかったです。はい」
7月9日、埼玉・熊谷ラグビー場。日本最高峰のトップリーグで3連覇中のパナソニックは、サントリーとの練習試合をおこなった。若手を試験的に起用して33−52と大敗したディフェンディングチャンピオンにあって、FLとして先発した2年目の布巻が気を吐いた。タックル、ランでゲインライン(攻防の境界線)を蹴破った。
FW陣の見せ場であるスクラム、ラインアウトといったセットプレーではやや苦しんだが、本人はこんなふうに振り返っていた。
「セットプレーは練習していない分、迷惑をかけた。ただ、フィールドでは、いろんな所へ顔は出せたかな、と思います」
東福岡高のゲーム主将として、2010年度の全国高校ラグビーを制覇。身長178センチ、体重98キロと国際級にあっては小柄ながら、コンタクトシーンでの強さを長所にCTBとして活躍。早大3年時からFLにコンバートし、日本代表入りを目指している。
かねて膝に古傷を持つため、春先から走り込みを多くおこなったパナソニックでは「コンディションを見ながら、グラウンドに出る時間とジムで調整する時間のバランスを取ってきた」とのことだ。
ロビー・ディーンズ監督からは、実戦でオールアウトできる気質で信頼される。
「我々スタッフが彼の練習量をコントロールした部分はありました。彼自身も身体の管理を学んでいるところ。ただ、今日の試合を観る限りでは、そうしたマネジメントが必要な選手には見えなかった。いつも100パーセントの力を出し切る」
もっとも本人は、「もっとコミュニケーションを取って人を動かすということもやらないと。いまは自分のプレーで精いっぱい」と課題を挙げる。長らくオープンサイドFLのレギュラーを張る西原忠佑がその連携に長けているとあって、レギュラー定着に向け「そこを、切磋琢磨しながら崩していかないと。コミュニケーションもプレーのひとつ」と静かに燃える。
6月。日本代表のテストマッチ(国際間の真剣勝負)があった。欧州6強の一角であるスコットランド代表との2連戦をテレビ観戦した布巻は、「チームがしようとしていることを1つになってやれば、(大柄な相手との)体格差も埋められている」と実感した。
「(必要最低限の)激しさがあってのことだとは思いますが、どの戦術をするのかというより、その戦術を皆が理解するのが大事。そういう印象を受けました」
自身と同じポジションには、今季から代表入りした金正奎が入っていた。しばし相手ボールの接点に身を挺して突っ込み、球を奪った。早大の1学年先輩でもあるボールハンターについて、布巻は「最近、代表に入ったばかりなのに、あの存在感。僕が見習わないといけないところです」と素直に凄さを認める。
ワールドカップ自国大会を2019年に控え、布巻自身も代表入りを目指す。それでもあえて、慌てない。他者の動静に一喜一憂せず、自分の強化計画を全うした先で2019年を目指したいという。
「本当はあそこに立てれば…という思いもありますけど、現にあそこに立てていない。いまはそこ(早期の代表入り)を見ず、自分に必要なことを(ワールドカップ出場から)逆算してやっている。必要なことを、1つひとつ、つぶして(クリアして)いきたいなと。全部の仕事のスタンダードを1つひとつ、上げる。特にディフェンスのブレイクダウン(相手ボールの肉弾戦)では突出した印象を与えていきたいな、と。体力的に充実している感覚は、あります。身体を強くすると走りが落ちる…というのが基本的な考えだと思うんですが、いまはその両方をバランスよく高められている。体重やパワーをつけながら、ランを落とさずに来られている」
プロ生活2年目の7月13日、24回目の誕生日を迎える。
(文:向 風見也)