サンウルブズで力をつけている森太志(写真中央)。南ア遠征で出場をめざす
(撮影:松本かおり)
4月30日にさかのぼる。日本代表デビューを飾った25歳の知念雄が、こんな話をしていた。
「太志さんが組みながら、いや、組んでいるなかでも、姿勢とか押す方向のことを話してくれた。自分も自分で、自分の姿勢にフォーカスしていた。いいコミュニケーションが取れていたと思います」
この日のジャパンは、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場でアジアラグビーチャンピオンシップ初戦をおこなった。韓国代表を85−0で制していた。
8対8で組み合うスクラムでも、ほぼ優勢を保っていた。その最前列右に入った知念は、左隣同士で組んだ先輩に感謝していた。
中央にあたるHOに入っていたのは、森太志。知念と同じ東芝に所属し、やはりこの午後にテストマッチ(国際間の真剣勝負)デビューを飾った28歳である。
7月。国際リーグのスーパーラグビーに日本から初参戦中のサンウルブズは、今季の残り2試合を戦うべく南アフリカ遠征をおこなっている。
左ひじを痛めていた堀江翔太主将が遠征不参加となったなか、スクラム最前列中央のHOにはかねてスコッド入りしていた有田隆平が初めて帯同。堀江主将欠場時に先発していた木津武士、さらには森が、有田とともに背番号「2」を争っている。
「サンウルブズのなかで練習をさせてもらっている。それはものすごく大きいです。(タックルされた際の)寝方が少しでも悪いと、相手にボールを獲られたり…。ハイレベルな選手たちとの練習で経験できることが、実戦でも活きている」
サンウルブズへは開幕直前に追加招集され、ここまで2度のスーパーラグビー公式戦出場を果たした。渦中、森は充実感を覚えた。6月は、海外勢を含めた日本代表のツアーへも帯同。立場を変えながら、堀江主将や木津との切磋琢磨を続けた。
身長175センチ、体重108キロ。国際クラスにあっては小柄だが、帝京大、東芝と、肉体強化を重んじるクラブで鍛えた。昨季は途中出場が主体ながら、下働きで存在感を発揮した。相手の接点に腕を絡めたり、鋭いタックルで敵のランナーを押し戻したり。
相手やレフリーとの駆け引きが必須のスクラムワークでも、日々、成長する。
東芝でレギュラーを争うライバルは、元日本代表HOの湯原祐希。練習時間も貴重な実践の場だ。
春の代表合宿では、同じ帝京大出身HOで23歳の坂手淳史(パナソニック)が森に教えを請うた。
「肩が高くなっている、とか、もう少し『ここ(組み合う瞬間の姿勢のことか)』を低くしたら相手は嫌がる、とか、スクラムの具体的なことをアドバイスしてくださる。自分のなかでは、めちゃめちゃためになります。スクラムに関してすごく研究されている」
現地時間9日、プレトリアはロフタス・ヴァースフェルドでブルズとの第16節をおこなう。
森にとってのブルズは、初めて戦ったスーパーラグビーの相手だった。
シンガポール・ナショナルスタジアムでの第5節で、後半22分からの出場が叶った(一時交代で7分間プレー)。27−30で惜敗したゲームにあって、森は引け目を感じなかった。
「ブルズのスクラムはパワフルでした。ただ、それに対してしっかりとヒットすれば、サンウルブズも我慢ができた」
さかのぼって4月23日、秩父宮。サンウルブズ唯一の白星を挙げたジャガーズとの第9節は、スタンドで見届けた。この午後は、昨秋のワールドカップイングランド大会で4強となったアルゼンチン代表主体のクラブに、36−28で勝った。
歓喜の瞬間、こんなことを思ったという。
「堀江さんたちが(相手と互角に)スクラムを組んでいるのを観て、僕もああいうふうに、チームを助けるようなスクラムを組みたい」
まずは、またスーパーラグビーのグラウンドに立ちたい。8月からある国内のトップリーグ、ひいては来季以降の国際舞台につながる、貴重な収穫を得たい。
(文:向 風見也)