2戦連続先発(全4試合出場)で優勝に貢献したCTB前田土芽
(撮影:松本かおり)
<アジアラグビーチャンピオンシップ 2016>
日本代表 59−17 香港代表
(5月28日/東京・秩父宮ラグビー場)
前の3試合を大差で制した大会の最終戦。日本代表は図らずも、自滅の回避をゲームテーマとした。
試合前から戸惑った。コイントスで自軍ボールを勝ち取ったはずのキックオフが、ふたを開ければ相手ボールからのスタートだった。相手と同じ香港協会所属のティム・ベイカー主審に、SH内田啓介主将は取り合ってもらえず。時計が回り出せば、密集戦での判定にも首を傾げた。
ここへ香港代表の日本代表防御網への研究成果(リー・ジョーンズ ヘッドコーチいわく「(飛び出しと組成が)速い相手の背後を突く」)、初代表が並んだCTB陣の疲れなどが重なる。ジャパンは、前半20分までに0−10と先行された。
もっともチームは、事前に最悪の事態を想定していた。
「ま、笑っとこう」
LO小瀧尚弘の心は、本来は触れないラック成立後のボールを目の前で獲られても平静を保った。CTB前田土芽によれば、「相手ペースになった時、決まった単語を言い合うことでそこに立ち返れた」。合言葉は「アクションラグビー」だった。
具体的な改善もあった。防御面では、外側の選手が内側へ極端に飛び出す向きが収まり、接点付近の選手の配列に均衡化が生じた。
さらに強まったのは、陣地獲得への強い意識だった。
前半23分頃、自陣ゴール前からWTB児玉健太郎がどかんと蹴る。
慌てて落下地点へ戻った相手は、すぐにタッチラインの外へキック。
日本代表は、敵陣10メートル線付近左でのラインアウトを獲る。
CTB石橋拓也の突破から同22メートル線付近へ進み、左へ展開。7−10と迫った。
SH内田主将はこの瞬間、自滅の回避への道を確認した。28分、またも敵陣のラインアウトからの連携で14−10の勝ち越しを決めた。
24−10で迎えた後半は、概ね本来の実力差を示したか。
石橋、前田の両CTBは、それぞれ7、13分に、相手防御の裏を突く走りで追加点を決めた。45−17。
今回のメンバーには2015年のワールドカップイングランド大会組は含まれず。報道量は限られ、始動が叶ったのは開幕から約1週間前。短期間で跳ね上がったナショナルチームの価値を保持するには、やや難しい状況下だった。
しかし集まった1人ひとりが、その価値に誇りを持った。
その延長線上にあったのが、守備列修正、ロングキック、すれ違いざまのランといった、この午後に起った自滅回避の手法だった。
大勢が決まれど、誇りは変わらず。
52−17で迎えた試合終了15分前頃、グラウンド中盤で相手がカウンター攻撃を仕掛けた瞬間だ。
FL金正奎が味方のHO橋本大吾が捉えたランナーにぶつかり、2人がかりで足を掻いた。
「誰かがタックルに行ったところの内側(接点側)は、常に(攻守逆転などを)狙っている」
香港代表の面々は、押し込まれた勢いで攻防の境界線に取り残された。同地域出身のレフリーに「オフサイド」と判定され、この午後最後のスコアを演出した。
(文:向 風見也)