医歯薬系大会を支えた辻信宏さん(左)と神戸大・林裕之君。
医師、歯医師、薬剤師など医療従事者を目指す大学生による関西医歯薬系学生ラグビー大会が5月22日、終わりました。
同日、大阪の鶴見緑地球技場であった決勝戦では、赤いジャージーの広島大が44−7で白の大阪大を破り、2年ぶり2回目の優勝をしました。
4月24日から、毎週末6日間を費やした大会の主催は関西協会ですが、運営は近畿地区の14大学が持ち回りで任されています。
今年の「主管校」は関西大学D1リーグ(4部相当)所属の神戸大でした。体育会とは別に医学部だけのクラブがあります。
中心になったのは主務の林裕之君。消化器系の外科医を志望する4年生です。
「みんなが協力してくれて問題なく運営ができました。ありがたかったです」
6年間の学業が義務付けられている医学部では5、6年生は専門的な実習が多くなります。そのため4年生がクラブ運営を任されることが多いのです。林君は振り返ります。
「去年の10月くらいから動き出しました。協会にお願いしてグラウンドを押さえたり、試合日程を組んだり、パンフレットや大会開催要項を作ったりしました。いろいろな仕事があって大変でした」
林君は京都・洛星高時代は硬式テニス部。ラグビーは大学から始めました。178センチ、80キロの体を生かしLOをしています。
「高校は個人競技だったので、大学はチームスポーツをしたいなあ、と思っていました。ラグビーは雰囲気がよかったんで、決めました。今でも楽しいです。ずっとみんなでいます。それでも飽きません」
最後の仕事、グラウンドのラグビーポール撤収など後片付けを終えた後は、神戸市にあるキャンパスに戻って、打ち上げのバーベキューをしました。
林君たち学生を陰で支える人もいます。レフェリー資格も持つ整形外科医の辻信宏さんです。大阪市立大OBの58歳。関西協会の大学リーグ委員会で医歯薬担当になった約10年前から無償で関わっています。
「きっかけは大会の1週間前に『レフェリーいませんか?』と学生が慌てていた、というのを聞いたからです。僕らが現役の頃は、吉田音松さんという世話役がいらっしゃった。大阪城公園の堀がグラウンドだった時代です。そんな人がいない、と聞いたのでそれなら手伝わせてもらおうと思いました」
吉田さん(故人)は大阪府協会理事でした。息子の聡さんは府立牧野高の監督です。また、辻さんの義父は今年3月に逝去した大阪経済大元監督の岡本昌夫さんです。
大会も含めて、ラグビーは次世代につながっていますね。
辻さんは勤務医です。普段の診察や手術の合間を縫って学生たちのために助言をし、行動します。疲れを口にしません。
「僕にとっては趣味の1つですから。ゴルフの好きな人は誰でも一生懸命スイングの練習をするでしょう? あれと同じですよ。学生たちと連絡を取り合うのも、面倒臭くありません。今の世の中、コミュニケーションツールはメールなど含めていろいろあります」
辻さんは表彰式を見届けながら言います。
「無事に大会が終わってくれて何よりでした」
この大会は九州を除く、西日本から21チームが参加しました。優勝した広島大は医、歯、薬の3学部からなるクラブです。
キャンパス(広島市南区)の地名を取って「霞ラガーズ」と呼ばれるチームの主将は、医学部4年の東賢(あずま・けん)君です。大阪府立天王寺高でラグビーを始めました。髪が金色に輝くCTBはニッコリ。
「勝ててうれしいです」
ヘアカラーはワインバルでのアルバイトの影響でしょう。
「ラグビーするのにもお金がかかります」
東君は家庭教師もしています。広島大の部員にとって、バイトは必須。試合は全て大阪府か兵庫県。勝ち上がれば観光バスをチャーターするか、部員たちの車に乗り合って来なければなりません。
「バス代とか食事代を入れたら、1人1回1万円は最低かかります」
学業優先、賃稼ぎをするため、練習は週3回。月、水、土で2時間程度しかできません。それでも、整形外科医を目指す東君はラグビーを続けます。
「元々、大学でするつもりはありませんでした。でも、練習を見に行ったら、みんな楽しそうにやっていたんです。それで入部しました。ラグビーのよいところは、OBさんとか上の方とのつながりが出てくる。病院見学に行っても、『ラグビーをしています』と言えば、経験者の人から『おーお、そうか』と面倒を見ていただけます」
最後に辻さんに聞きました。
―どうしてラグビーをするんですか? 医者になるのに必要ないですよね。手をケガしたらオペできないでしょう。
「彼らは経済や経営など普通の学部にいる大学生と一緒なんですよ」
みんなラグビーが好きなんですね。
(文:鎮 勝也)
広島大がトライを奪う。