(撮影/松本かおり)
もしかしたら、スピード記録かもしれない。初キャップを得た1分後にトライ。4月30日におこなわれたアジアラグビーチャンピオンシップにて、WTB山下一(やました・はじめ/長崎北→筑波大→豊田自動織機)が試合開始のキックオフから1分でインゴールにボールを置いた。
いい集中力が生んだプレーだった。相手のノックオンで得たスクラムをFW8人がグイッと押し込み、SO山中亮平らBKが約束通りに動く。それを背番号14が仕上げてみせた。このトライも含め、初めてのテストマッチで3トライを決めた山下は、「FWを含め、内側の選手がしっかり崩して外のスペースをあけてくれたから」と話した。
85-0と大勝するトライショー(チーム合計13トライ)の号砲を鳴らした山下は、特別な思いでこの試合に臨んでいた。キャップ認定試合に出られる誇りと喜びもあったが、サンウルブズのスコッドに選ばれている者として特別な気持ちだった。目の前の試合に集中し、勝利の責任は果たす。それだけでなく、ワンランク上のパフォーマンスを披露して、マーク・ハメット ヘッドコーチらサンウルブズ首脳陣の目に自分の存在を焼き付けたかった。
選出されたときには驚いたが、スーパーラグビーの舞台に立つ権利を得たからには、試合で結果を残す義務もある。プロフェッショナルな人たちが揃った集団に身を置いて感じたことだ。
「試合にはまだ出場することができていませんが、ラグビーに没頭する時間を過ごしてすごく刺激を受けています。堀江さん(翔太/HO/主将)の話すことを聞き、チームとしてシーズンを全員で戦っている意識は高まりました。オン、オフの切り替えは大事ですが、これほどいつもラグビーのことを考えたことはありません。チームとしてのファンへの対応やチームの一員としてやらなければならないことなど、プロ意識も高まりました」
そこは自分を成長させてくれる空間。その成果をはやく試合のピッチに刻みたいといつも胸に秘めている。
日本代表へ招集されてからは、サンウルブズの一員として得たものをチームに拡散するため、リーダーシップを意識して動いている。
「チームの先頭に立ってやらなきゃいけない。若い選手が多いチームなので、自分から発信していこう、と」
高まっているのは気持ちだけでない。サンウルブズでの活動で成長した部分を前面に出し、広められれば。
「オフ・ザ・ボールの動き(ボールに絡んでいないときのプレー)は、学生時代、トップリーグ1年目(2015年度)のときより、間違いなく意識が高まったと思っています」
サンウルブズに名前があるだけ、とは言われたくない。スーパーラグビー初年度の混乱期だからジャパンに入れたと言われるのも絶対に嫌だ。
韓国とのテストマッチで残した結果を評価され、5月7日に敵地で戦うアジアラグビーチャンピオンシップの香港戦でも先発メンバーに選ばれた(14番)。「ポジションも含め、そのときに与えられた役目をきっちり果たしたい。この先、キャップも重ねていきたい」と語っていた男は、6月のスコットランド戦も含め、この先も日本のトップクラスで戦っていきたい気持ちにあふれている。
そのためにも、サンウルブズの試合ではやくハジメの一歩を刻みたい。アジアでの戦いで結果を残し続けることは、もっと高い場所で活躍するための最低条件だ。