日本代表キャップは史上最多の96。(撮影/松本かおり)
スーパーラグビーでの連勝がかかる試合の前日。サンウルブズのキャプテンズラン前のロッカールームが突然暗くなった。
テーピングを巻いていた大野均は、なにごとかと驚いた。キャプテンの堀江翔太らが誕生ケーキをくれた。この日38歳になったベテランLOに、仲間たちがサプライズのお祝いを用意してくれていた。
「まちがいなく、これまでの人生の中でもらったケーキの中でイチバン大きなものでした。ホテルに戻って、昼食の時にみんなで食べたいですね」
5月7日のフォース戦(豪州)でも、元気に先発LOとしてピッチに立つ。「東芝に入った頃は、この年までプレーできるとは思っていませんでした」と穏やかな表情だった。
昨年のワールドカップでは、南アフリカ撃破に貢献した。今季から参入したスーパーラグビー、サンウルブズのスコッドにも選ばれ、8戦中7試合に出場。そのすべてが先発で、407分ピッチに立っている。
衰えぬ理由をこう話す。
「まだまだ若い人たちとやっていたいな、と思っています。スーパーラグビーでプレーしている以上、年齢なんて関係ない。チームに貢献するのが自分の目標です。いま一緒にプレーしている選手たちは、全員がサンウルブズ1年目。(自分は)社会人16年目ですが、(周囲と同じように)フレッシュな気持ちでやれています。それに体もついていっている感じです」
レベルの高いリーグの中で戦う秘訣を、「ジャパンで格上の相手と戦うときと同じ」と言った。
「そんな気持ちを毎週コンスタントに出さなければいけないのはハードですが、変わらずやり続けていれば(7戦目で初勝利となった)ジャガーズ戦のようなことが起こる」
自然体で高いレベルを維持し続けられる域に達している。
大野のチームでの存在感について、マーク・ハメット ヘッドコーチは、こう話す。
「このレベルの戦いを、38歳でやれた人はブラッド・ソーンぐらいだと思います」
クルセイダーズ(NZ)で長く活躍し、オールブラックスのLOとして36歳の時にワールドカップ優勝(2011年)。その後もピッチに立ち続け、40歳まで英・プレミアシップのレスターでプレーした男を引き合いに出すことが信頼の深さをあらわしている。
「毎週トレーニングを重ね、リーダーのひとりとして周囲にインスピレーションを与えています。来日するまで(自分は大野のことは深く)知らなかったけれど、同じチームで過ごしてみて、周囲がリスペクトする理由がよく分かりました」
その言葉には、欠かせぬ戦力として認めているのと同時に、人間的に尊敬している思いも含まれていた。
若いFWを組んできたフォースに対し、「粗削りなところもあると思うので、チームとして対処していきたい」と話す大野は、この先のことについて「変わらず結果を積み重ねるだけ」と言葉を継いだ。
「(2019年の)ワールドカップにも行けたらいいな、とは思いますが、目の前の試合を一つひとつ戦い、結果を出し続けていくだけ」
いま周囲から受けている高い評価は有り難いけれど、「その評価も次の試合で崩れるかもしれない。そんな気持ちでプレーしていきたい」と気持ちを引き締めた。
日本ラグビーの宝は、いい年のとり方している。