サンウルブズの歴史的勝利に秩父宮は沸きに沸いた。4月23日、狼たちはアルゼンチン代表が中心のジャガーズに牙を剥いて36-28。1万4940人のファンが総立ちになる80分だった。
16-25で迎えた後半16分、CTBデレック・カーペンターが鮮やかにトライを奪って差を詰めたとき(コンバージョンも決まり23-25)、多国籍メンバーで構成するチームに日本ラグビーのエッセンスが見えた。フルタイム直前、SOトゥシ・ピシのオフロードパスを受けたCTB立川理道がインゴールに飛び込んだトライもそうだ。
しかしカーペンターにパスを出し、自らトライラインを超えた立川は、BKラインの中心人物として言った。
「両方とも安定したスクラムがあったから。FWで取ったトライだと思います」
この試合、サンウルブズFWはスクラムで奮闘した。ときには押し込まれる場面もあったが、ほとんどの場面でしっかり組み、好球をBKへ。前節までの試合ではセットプレーの崩壊が敗戦に直結してきたが、この試合では8人で組むスクラムを徹底して応戦してみせた。
後半19分からピッチに立ったPR浅原拓真は、後半34分には自陣でのスクラムで相手反則を誘った。29-28と僅か1点リードの場面だったから、自陣からの脱出を呼んだこのシーンは大きかった。直後のペナルティーキックでジャガーズ陣に入ったサンウルブズは敵陣で攻め続け、相手に反撃の機会を与えなかった。ラストプレーでのトライも、安定したスクラムから生まれた。
ペナルティを奪った場面を浅原が思い出す。
「あちらが(スクラムを組むのを)嫌がっているのが分かりました」
サンウルブズには勢いがあった。まとまりを欠く相手に、8人一体となって攻める。ホイッスルが鳴った瞬間、四角い体の背番号18は思わずガッツポーズを作り、吠えた。
スクラムの安定を求められてチームに加わった浅原だったけれど、前節まで世界との差に苦しみ続けていた。特に南アフリカ勢のパワーは桁違い。「特にチーターズはめちゃくちゃ個々が強く、組織としても突け入るスキがなかった。どうしようもない感じでした」と告白した。
正直者だ。ジャガーズ戦での善戦と改善の理由を『南アフリカからの開放感』とも言った。
「きついツアーでした。そこから日本に戻って来られたことでも嬉しかったし、南アフリカ勢のあの強烈なスクラムを経験してきた者としては、ジャガーズの圧力はそうでもないように感じました。バラバラ感があった。今日に関しては、こちらがどうこうというより、それが(健闘の)一番の理由だと思います」
もちろん自分たちの進化もある。
「8人で組む。これは徹底しています。特にツアー中は本数的に多く組み込むことは難しいので、そこをよく話し合いました。そうやって、押す方向を統一できたことも大きかった。3番としては、相手の複数と勝負するのではなく、1番と1対1になるように意識しました。そしてヒットで負けない。ペナルティーをもらったスクラムでも、深く差し込めました」
初勝利までに8試合を要した。この先もラクな試合など1試合もないのは分かっているが、ワールドレベルとの試合が続く日々がたまらなく楽しいと笑う。
「国内では、(トップチームの東芝に在籍しているので)相手から挑んでこられることがほとんどです。でもスーパーラグビーでは、すべて自分たちがチャレンジする立場。ひとりのプレーヤーとして楽しい状況と感じています」
先発もあれば途中出場のときもある。しかし、そのすべてで自分に求められているのはスクラムでインパクトを与えること。そう理解してピッチに立っている。
四角い顔と四角い体の躍動を、今度は敵地でも。その前に、5月7日の秩父宮(フォース戦)でもまた、前へ。