初勝利を喜ぶサンウルブズの選手たち(撮影:?塩隆)
初参戦のスーパーラグビーで、南半球の猛者たちを相手に苦汁をなめ続けた日本のサンウルブズが、挑戦8試合目にしてついに、歴史的初勝利をあげた。4月23日、東京・秩父宮ラグビー場で同じ新参チームのジャガーズ(アルゼンチン)と対戦し、80分間の激闘を36−28で制した。
「選手の努力あっての結果。誇りに思うし、涙が出てきた。ハードワークを重ねてきた。フィールド内外でハードにやってきた。お互いを知るために、いろんなことをやってきた。長旅、逆境のなかでも選手たちはみんな月曜には笑顔になっていた。ハル(立川理道)だったと思うが、ハッピーなチームになるだけでなく、勝つチームにならないと、と言っていた。それが現実のものになった」と、喜びをかみしめたサンウルブズのマーク・ハメット ヘッドコーチ。
前節のチーターズ戦で17−92という屈辱的大敗を喫し、長期遠征した南アフリカから帰国したばかりのサンウルブズだったが、気持ちは折れていなかった。
「ポジティブに考え続けたことがよかった。何ができなかったかより、何ができるか、前向きに考えてきた。現実を受け止めて、100%出さないと前戦のようになってしまうと言い続けてきた。今回、自分たちの本来の姿を見せようと話して挑んだ。セットプレー、時間をかけて強化していくもの。前試合の教訓で、うまくいかないとき、ひとりでどうにかしようとするのではなく、全員で話して対応しようとしたのがよかった」(ハメットHC)
昨年のワールドカップでベスト4入りしたアルゼンチン代表のメンバーが11人先発したジャガーズに対し、ひるむことなく、最後まで食らいついた。
PGで先制したが、フィジカル強いジャガーズに攻められ。前半7分、10分と連続でゴールラインを割られた。
しかし、サンウルブズは20分、チーム一体となった連続攻撃の末に途中出場WTB笹倉康誉が初トライを挙げ、コンバージョン成功で同点とする。32分にはSOトゥシ・ピシがPGを決めて13−10と勝ち越した。
それでも、対戦相手のジャガーズは、初舞台で1勝6敗と苦しんでいるとはいえ、開幕前は優勝争いに絡んでくるだろうと予想されたチーム。34分にパントキックを使って長身のFBエミリアーノ・ボフェリがトライを奪い、前半終了前にはこの日キック不調だったSOフアン・マルティン・エルナンデスがPGで3点を追加し、13−18で折り返した。
追うサンウルブズは45分(後半5分)にFBリアン・フィルヨーンのショット成功で2点差に詰めたものの、その約1分後、CTBデレック・カーペンターがパスをジャガーズのNO8ファクンド・イサにインターセプトされ、50メートル独走を許して再び点差は広がった。16−25。
それでも、秩父宮の大観衆の後押しもあって、サンウルブズは食らいついた。
56分、スクラムからのアタックで、ミッドフィールドのカーペンターが鋭角に切り込んで立川の短いパスを受け抜け出し、数分前のミスを帳消しにするトライを獲得。66分にはピシがPGを決め、26−25と逆転した。その2分後、ジャガーズに3点を入れられたサンウルブズだったが、71分にピシが難しい角度からのPGを決め、29−28と再びリードした。
残り時間はみな、懸命に体を張った。
74分、途中出場でデビューを果たしたFL安藤泰洋が密集で絡み、ターンオーバー。スクラムでもサンウルブズのFWが奮闘し、チームは活気づく。
そして1点リードで迎えた79分、サンウルブズはゴール前でチャンスとなり、スクラムからのアタックで、切り込んだSOピシからオフロードパスを受けたCTB立川がインゴールに飛び込み、勝利を決定づけた。
「やっと勝てた」
試合後、そう語った立川の言葉は、チーム全員の気持ちを代弁しているに違いない。
「すごく厳しい試合が続いていて、しんどい時間も長かったけど、チームがひとつになってやってきたので勝てた。負けたくない気持ち、勝ちたい気持ちがバッキングなど、自分の動きに結びついた。最後10分はトゥシがゲームコントロールしてくれた。自分のトライはラッキーだった。チームとしてやりたいことができてよかった。今回のゲームプランは自分たちの強い形でやっていこう、と。最後の自分のトライはトゥシが行くとわかっていたのでオフロード、あるいはカーペンターのトライの時は、それまでの相手の動きを見て、うしろの動きをデコイに使って取れた」
立川は、安定したスクラムを組んでくれたFWのがんばりも称え、「BKというよりは、FWが取らしてくれたトライ。この1週間、スタッフが考えて落とし込みをしてくれた。あの負け(チーターズ戦)を経験したことで、今日競ったときに、ああいう状態に戻りたくなかった」と、激闘を振り返った。
一方、肩を落としたのはジャガーズ。
いつもは陽気なはずのHOアグスティン・クレービー主将は暗い表情で、「勝つための準備はやってきた。今日に関しては、おかれた状況をコントロールできなかった。ミスも出て、ディフェンスに入り込まれてしまった。4週間のツアーをやってきて、後半は疲れから立て直せなくなっていた。スクラムは思い通りに組めて、ペナルティをもらえたところもあったが、サンウルブズの速いフッキングで、うまくプレッシャーをかけることができなかった」と反省した。
この試合には、昨年のワールドカップで得点王となったSOニコラス・サンチェスが連戦のローテーションで不在だったが、それよりもラウール・ペレス ヘッドコーチはタックルの精度の悪さとブレイクダウンを課題にあげ、「ここをなんとかしないと、対戦相手につけ込まれる。アタックについても、ディフェンス面についても同じだ」とコメント。
そしてサンウルブズについては、「タフな試合が続いたなかでも、よくコミュニケーションをとるチームと思っていた。今日の勝利については、おめでとう、と言いたい」と祝福した。
世界最高峰リーグともいわれるスーパーラグビーで、サンウルブズが大きな壁を乗り越えた。
ファンの期待を感じている。地震で被災した九州の人たちにも、何かを伝えることができればと思って、精いっぱいラグビーをしている。そして、ようやくつかんだ初勝利。キャプテンのHO堀江翔太はこう言った。
「ファンのみなさん、ラグビーファミリーのみなさん、選手の家族、サンウルブズのサポートをしてくれた多くの皆様に感謝します。熊本県、大分県、九州で地震の被害にあわれたみなさんにこの勝利で少しでも勇気を届けられたのであれば嬉しいし、この後も一緒に復興に向けて前に進んでいきたい」
前半にトライを挙げてチームを活気づけたWTB笹倉康誉(撮影:福地和男)