現役を引退する廣瀬俊朗氏(東芝ブレイブルーパス)
今シーズン限りで約30年間に渡る現役生活に別れを告げた廣瀬俊朗氏(東芝ブレイブルーパス)。
2012年、現在はイングランド代表を指揮するエディー・ジョーンズ氏が日本代表のヘッドコーチに就任すると、最初のキャプテンに指名され、2015年ワールドカップでは精神的支柱としてチームを支えた。
日本代表時代は、選手としても2013年のウェールズ撃破に貢献し、マレーフィールドでスコットランドとも対戦した。その経験をもとに、シックス・ネーションズの印象と、かつてのボスであるジョーンズ ヘッドコーチについて話を伺った。
――もともとシックス・ネーションズがお好きだったとお聞きしました。
廣瀬:子どもの頃、「海外ラグビー」と言えば、当時はイタリアが参加していなかった「5か国対抗」。めちゃめちゃ見ていました。テストマッチ(国同士の真剣勝負)の雰囲気を素直に楽しんでいましたし、夜中にやっているのを心待ちにしていましたね。スコットランドのFBギャビン・ヘイスティングスとか、イングランドのCTBウィル・カーリング、ジェレミー・ガスコットとか好きでしたね。
――シックス・ネーションズの初解説をされたアイルランド対イタリア(3月12日)の印象は?
廣瀬:お互い勝ち星がない中で苦しいところだったと思いますけど、アイルランドは自分たちがやりたかった、ゲインラインに対してアタックしているところがよかったですね。もともとアタックがすばらしいチームですが、SOジョナサン・セクストンや、後半から入ったイアン・マディガンも仕掛ける選手。ブレイクダウンも含めて、アイルランドの選手は立っていましたけど、イタリアは倒れている選手が多かった。そこが勝敗を分けた1つでもありますし、ラインアウトとブレイクダウンでもアイルランドは優位に立っていたと思います。一方のイタリアは、自分たちの強みを出すことができていませんでした。ただ、強みの1つであるフィジカルを出すような戦略と、ボールを動かそうというところも見えたので、今後もチャレンジしていったら強みになるかもしれないと思います。また右PRマルティン・カストロジョヴァンニが欠場していたこともありますが、スクラムでもう少し優位性を出せれば良かったですね。
――2013年に実際に対戦したスコットランドについては?
廣瀬:このチームは、どこかがすごく秀でているというのではないですが、歴史みたいなものをいつも感じさせてくれます。そんなにうまいわけではないけど、「俺たちには負けられないものがある」という誇りもあります。チームとしては、相手の弱みを察知した時に集中するしたたかさがあり、SHのグレイグ・レイドロー キャプテンがうまくチームを引っ張っていますね。
――日本代表は、スコットランドと2015年ワールドカップでも対戦しましたし、今年6月にも2度の対戦予定があります。
廣瀬:ワールドカップでは、僕ら日本代表は中3日、対するスコットランドは初戦でよく準備されていた。あとは日本代表の弱みをうまく突かれて、強みを出されたと思いますね。6月のテストマッチでは、日本代表がいかに自分たちの展開に持っていくかというところが大事だと思います。エディーさんから指揮官は替わるけど、日本のスタイルというのは運動量で相手を上回ってアタッキングラグビーをしながら、スペースがあればキックしていくところだと思います。そういった部分を引き続きやってほしいです。やはり、2019年ワールドカップの開催を控えて熱を帯びている中のホームゲーム。結果が一番大事ですけど、内容も当然問われてくる中で、日本らしい戦いを見せてほしいなと思います。
――11月、日本代表はアウェーでウェールズとも対戦します。
廣瀬:ウェールズとアウェーで対戦するのは、かなりハードな試合になると思いますね。日本代表が2013年に戦って勝利した時は、(主力選手がブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズの遠征で)ベストメンバーではなかったですけど、ボールを動かしてくるし、ディフェンスでも気持ち見せて低いタックルをしていました。あと、FLサム・ウォーバートンというすばらしいキャプテンもいますね。日本代表は、どこと対戦しようが自分たちの戦いをするだけだと思います。すごいプレッシャーがあるけど、それを含めて楽しめるか。あとは、それだけの準備をしていくかということが大事ですね。
――エディー・ジャパン時代に対戦はありませんが、フランスの印象は?
廣瀬:フランスのラグビーはもともとすごく大好きで、やはり9番(スクラムハーフ)が大事なポジションになると思います。指揮官がギー・ノヴェスになって、彼の愛弟子のような存在であるSHマクシム・マシュノーを連れてきて、ボールを回すスタイルをやってくれているのがうれしいですね。独特なアタックが少し鳴りを潜めていた感じがありますが、新しいヘッドコーチが率いてから、基本はフィジカルにあるけれども、「シャンパン・ラグビー」まではいかないまでも、フランスらしいどんどんボールを回すラグビーをしていますね。
――エディー・ジョーンズHCが就任し、優勝を決めたイングランドについても聞かせてください。
廣瀬:データ上でも一番点を取っていて、一番失点が少ない。もともと力はありましたが、それをそのまま出しているなと思います。ディフェンスを基本にしながら、初戦のスコットランド戦では、ゲインラインにアタックすることを続けて、トライをあげていました。あれは、エディーさんの影響かなと思いました。
――今後、ジョーンズHCはイングランドをどうやって強くしていくと思いますか?
廣瀬:僕らと一緒で、イングランドにはイングランドの形があって、自分たちだけのスタイルを築き上げていくと思います。相変わらずメディアに対応するとか、しないとか言っていますが、それを含めてエディーさんらしいなと(苦笑)。
ただ間違いなく、2019年ワールドカップを意識していると思います。アタックも強化すると思いますし、どうなるか楽しみですね。エディーさんはすばらしいコーチですし、日本代表とイングランドでは取り巻く環境が違うので、どういうふうにイングランドが変わってくのか楽しみです。
――日本代表でも結果を出し、イングランドでもいきなりシックス・ネーションズで優勝に導いたジョーンズHCの、すごいと思われるところは?
廣瀬:プロフェッショナルに徹していたところですね。厳しく接するのは彼のスタイルで、柔らかくやろうとしたらうまくいかない。たまには厳しすぎるなと思う時もありましたけど、すべては勝つためにやってくれていましたし、僕らも嫌だとは思わなかったです。選手やコーチとの衝突も厭わないし、めちゃくちゃ準備するし、彼が一番ハードワークしていた。だから、日本代表での4年間、ついていくことができました。
――改めて、シックス・ネーションズのどういうところを注目して日本のファンに見てほしいですか?
廣瀬:いろいろ見方があると思いますが、国を背負って戦うのはテストマッチしかできないし、そのすばらしさとか、試合を盛り上げている観客とか、スタジアムの素晴らしさもそう。プレー面では、1つ1つのプレーの質、特にブレイクダウンは激しいですね。各国のいろんな特徴がある中で、いいアタックしているチームは応援したいですね。また単純に、身体能力の高い選手も多いので、そこを見るのも楽しいと思います。
<廣瀬俊朗(ひろせ としあき) プロフィール>
1981年10月17日、大阪府生まれ。ポジションはWTB/SO。5歳から吹田ラグビースクールでラグビーを始め、北野高校から慶應義塾大学を経て東芝入り。高校、U19など各カテゴリーで日本代表入りし、2007年の香港戦で日本代表初キャップを獲得。2012年3月、5年ぶりに日本代表復帰を果たすとともにキャプテンに就任。2014年からはキャプテンを退いたものの、2015年W杯では陰でチームを支え続けた。2016年3月現役引退を表明。日本代表キャップ28。身長173cm、体重80kg。
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【最終節】
・ウェールズ vs イタリア 3月19日(土)夜11:15 <WOWOWライブ>
・アイルランド vs スコットランド 3月19日(土)深夜1:45 <WOWOWライブ>
・フランス vs イングランド 3月20日(日・祝)午前4:45 <WOWOWライブ>
★「ラグビー欧州6か国対抗戦 シックス・ネーションズ 総集編」
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3月27日(日)午後0:30 <WOWOWライブ>