サンウルブズのスピードスター、山田章仁。チーターズ戦でハットトリック(撮影:長岡洋幸)
後半17分に交代した。
「確かにばてていたのは自分でもわかりますけど、皆もばてていたからな…。もう少し、走りたかったですね」
攻めてはファンを沸かせる3トライを挙げ、守っては深い位置まで駆け上がってのキックオフタックルを繰り出した。好調ぶりは示した。それでも途中で退かざるを得ず、チームの逆転負けを見届けた。ノーサイド後にはチームスタッフと「勝ちたかった」と悔しさを分かち合い、グラウンドレベルの観客席でサインや写真撮影に応じていた。
「(攻撃は)ちょっと、よくなったと思います。トライも取れましたし。お互いが皆の特徴をわかって来て、いいスキルをいい形で出せている」
3月12日、シンガポール・ナショナルスタジアム。世界最高クラスの国際リーグ戦、スーパーラグビーの第3節に、サンウルブズの山田章仁が右WTBとして先発出場。チーターズ(南アフリカ)から前半に3トライを奪うも、結局、31-32で敗れた。日本から初参戦しているチームを世界に認めさたいとしてきたが、「まだ勝ってはいないので、それ(目標)は果たせていない。皆さんに勝ちをお届けしたい」と前を向いている。
「チーターズが気合いを入れてきた。こっちのディフェンスも甘くなって…かな、と」
昨季はウェスタン・フォース(オーストラリア)に在籍していた山田は、2月27日の今季開幕節でスーパーラグビーデビューを果たした。東京・秩父宮ラグビー場でライオンズ(南アフリカ)に13-26と敗れたが、「ディフェンスは皆とコミュニケーションが取れれば大丈夫だとわかった。アタックは、もっと(グラウンドの)外と内(の選手同士)のコミュニケーションが取れれば」と、歴史的な初白星への道筋を見据えていた。2週間のセッションを通し、初戦で出た課題の克服とサンウルブズにとっての2戦目への対策に力を入れた。そして当日。背番号「14」の山田は、準備の成果を現した。
前半3分。FBのリアン・フィルヨーンからバックフリップパスを受け取ると、右から左へのステップで目の前のタックラーをかわし、左からカバーに来た相手を難なく振り切る。フィルヨーンがバックフリップパスを得意とすることは、チームへ合流した11日以降の練習時に把握していた。
続く13分には、グラウンド中盤から右大外へのキックパスを起点とした攻撃で止めを刺した。フィルヨーンが捕球すると、CTB田村優、山田とボールがつながり、フィニッシャーは無人の右タッチライン際を駆け抜けた。
「(1本目について)最初の相手は、こっちが内(左)側へステップを切った時の反応が悪かったので、内側へ。いいハンズ(手渡しでのパス)がつながったと思います。(2本目は)コーチ陣が分析した結果、そこ(グラウンド中盤における、ボールがある地点の逆側)が空いているとわかっていた。結果を出せてよかったですね」
33分の3本目は、本人いわく「僕のなかでも嬉しいトライ」。グラウンド中盤左中間からSOのトゥシ・ピシが守備網の背後へ短いキックを蹴ると、田村が反応。その脇を並走していた山田がラストパスをもらい、ポールの真下へ飛び込んだ。
「真ん中の方(接点に近い位置)でボールをもらうようにとずっと自分でも心掛けていましたし、コーチ陣にもそれを求められていたので…」
かねて「WTBは活かしてもらうポジション。味方の作ったチャンスには反応したい。そのために(普段から)コミュニケーションを図る」と言い続ける30歳のトライゲッターだ。自分を「活かしてもらう」ための目配りを怠らない。だからこそ、まっすぐ走るだけの簡潔な得点方法にも深みをもたらすのだ。
19日、秩父宮でレベルズ(オーストラリア)と第4節をおこなう。チームや自身が通用することは証明した。あとは、白星を得るのみである。勝つことで初めて、世間の見る目を変えられる。日本代表として昨秋のワールドカップイングランド大会で3勝を挙げるなか、そのことを実感しているはずだ。
「結果が出れば、皆の自信がつくと思うので、早く勝ちを手にしたいですね。(開幕節より)勝ちに近かった。シーズン早めの段階でこういう経験ができてよかった」
帰国後のセッションでも、味方のプレーを知るという「コミュニケーション」を図ってゆく。
(文:向 風見也)