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「言っても変わらないかもしれませんけど」サンウルブズ山田、辛口提言の理由

2016.03.01
ライオンズ戦に先発出場し、スーパーラグビーデビューした山田章仁(撮影:松本かおり)
 南半球の強豪クラブが集うスーパーラグビーへ日本から初参戦するサンウルブズは、2月27日の開幕戦でライオンズに13-26で惜敗。歴史的初白星はならなかった(東京・秩父宮ラグビー場)。
 昨秋のワールドカップイングランド大会でも活躍した山田章仁は、WTBとして先発した。「自分のプレーは50点くらいですかね」。ノートライに終わったことや、チームの攻めにバリエーションをつけられなかったことなどを悔やんでいた。一方、「お客さんは非日常を求めている」と運営側サイドへのハードワークを直訴。いちプロ選手という立場を超え、ラグビーのエンターテイメント化を願った。
「グラウンド。つまずきました。そこのところは協会の方もしっかりして欲しいですね。段差もありましたし、怪我のリスクもあります。準備期間もスムーズに行っていなかったので、選手としては声を大にして言うべきかと」
 こう語ったのは、秩父宮での試合前日練習の直後だった。国内の試合を重ねて芝がぼろぼろになっていたグラウンドには、緑の芝が埋まっていた。しかし、予算の関係からか土に近い部分が残っていた。報道陣に囲まれた山田は、あえて苦言を呈した。
「いままではスパイク(のポイントの長さ)で調節したり、足場の悪いところではキックを蹴ったりしていました。ただ、グラウンド状態がいいとそんなことを考える手間が省ける。グラウンドの問題は、大きいと思います」
 結局、ライオンズ戦ではその芝に苦しむこととなる。最初のスクラムの際は、LOの大野均によれば「相手の足場が青々としているところで、我々だけが砂の部分だった。まずいなと思ったら案の定、押されて…」との状況だったという。普段は「マイナスの感情は悟られない」と決意する代表の常連だが、つい本音をこぼしたか。「2本目も悪いイメージのまま。でも、次第に修正できた」とも続けた。
 くしくも山田は、試合後にこう言葉も重ねていた。
「グラウンドもそうですけど、お客さんは日常ではないものを求めている。スタンドの感じ、食べ物もそうですが、もっとエンターテイメントにあふれてくると、皆、2回、3回と観に来てくれるようになる」
 身長182センチ、体重88キロの30歳。ワールドカップでは2試合に出場し、強烈なタックルと貴重な時間帯でのトライなどでヒーローの1人となった。過去には、単身での海外留学やアメフト挑戦など突飛とされる行動で話題を集めてきた。
 もっとも「自分のコントロールできることだけに集中する」をモットーとしており、「コントロールできない」ような体制への批判的発言は控えてきた。チームメイトが試合のレフリングに首を傾げた時も「受け入れるしかない」と話したり、録音機の回っている時と回っていない時で違う意見を述べたこともあった。
 それだけに、今度の発言は驚きを持って迎えられた。最近ではYouTube(動画共有サイト)上で意見を発信する番組をプロデュースするなど、変節の向きすらある。一体、何が山田を変えたのか。当の本人は試合前、こんな話もしていた。
「準備期間もスムーズに行っていなかった。その辺、選手も声を大にしていいのかな、と。言っても変わらないかもしれませんけど、言いたいから、言おうかなと。世界で戦ううえで、去年(ワールドカップ)までの4年間がどれだけ大変だったか。皆、それがわからないから、こういうことになっている」
 もともとサンウルブズ入りを前後し、何度も首を傾げていた。例えば、12月に都内であったサンウルブズのチーム発足会見時。事前に別な用事を入れていたにも関わらず、開催直前に運営側から参加を強く要請された。結局、途中退室を条件にしぶしぶ出席を決めていた。
 そもそも自ら会社を立ち上げるなど、大局的な視点で物事を進める人でもあった。身の回りの動きがスムーズではなかったこと、自らがワールドカップの成功で強い影響力を持ったことなどから、苦言を呈すべきだと決意したのだろう。「皆さんの立場上、問題ないのなら、ぜひ、記事にしていただければ」と話し、グラウンド外での体質改善を訴えるのだった。
(文:向 風見也)
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