関西学院大が新体制で始動した。
昨年、関西大学Aリーグでは8位。一昨年の1位から一気に最下位に転落した。
前年優勝チームが翌年ワーストになるのはリーグ戦創設とする1946年(昭和21)の4大学対抗戦(関学、京都、同志社、立命館)から数え、70年目で初めてのことである。
チームは原点に戻る。
「学生主体」
NTTドコモなど3チームの指導を経験したアンドリュー・マコーミック ヘッドコーチの退任に伴い、プロのフルタイムコーチはいなくなった。
監督には34歳のOB大賀宏輝がFWコーチから昇格する。
大賀は福岡県立東筑高校から入学。高校の8学年上にはU20日本代表ヘッドコーチの中竹竜二がいた。現役時代はHOだった。
現在は関学の人事課につとめる。職員なので、通常午後5時30分から始まる練習には参加できる。専任コーチ不在をカバーする。
「僕は学生が考え、チームを作るサポートをしている感覚です。もちろん学生だからコントロールしないといけない部分もある。でも最終的には彼らの自立を目指しています」
昨年の敗因を分析する
「僕は批判はしたくありません。負けたけれど、去年やったことは生きますから。ただ、あえて言うなら、学生たちがアンガスさんにやらされていた。自分たちで考えることをなくしてしまっていたと感じています」
関学は伝統的に学生の意志を尊重する。しかし、2012年から4年指揮を執ったマコーミックにすべてを委ね過ぎた。
その反省から、今年は学生とのミーティングの時間を増やした。希望や不満を吸い上げながら、自分たちでチームの方向性を持たせるためだ。2月7日の始動日から、木曜日をミーティング日に定め、その日以外でも積極的に意思疎通を図る。
「全体とか学年とか分けてやっています。回数はすでに去年のシーズンより多い」
木曜日は昨年、フリー(自由練習日)だった。今年はあいまいな日をなくし、週5日すべて練習を行う予定だ。
「学生からも練習量が少ない、とレビューが上がっています。僕たちがやらせるのと、学生たちが理解してやるのは大きく違う」
昨年、自陣からでも展開するラグビーを模索しながら、フィットネス不足で相手を上回れなかった反省が下地にはある。
今年は、監督の上に位置するゼネラルマネジャー職を作った。OB倶楽部副会長であり、2002年から2004年まで3年間監督を務めた大石修がついた。
大石は監督1年目に23年ぶりAリーグ昇格。2年目は5位に入り、初の大学選手権にチームを導いた実績を持つ。
「クラブの存在意義はラグビーの専門性を高めることと人間育成。グラウンドの指導は監督に任せて、僕は生活指導を含めた人間育成をやっていきます」
大石は61歳。就職した大阪ガスでは関係会社の社長もつとめた。現在は別の関係会社、アクティブライフで監査役をつとめる。ビジネスマンとしての経験も豊富だ。
OB会報に寄稿している。
<教育が最終目標とするのは、絶えずそのステージにあった知的、肉体的、精神的な向上を志向し、絶えず人間としての成熟度を上げていくことです>
関学ラグビーの重鎮らしく、広い視野を持ち、人間成長の大切さを述べている。
「ラグビーは人生をよりよく生きるための手段の一つ。勝ち負けももちろん大切だが、それのみが目的になってはいけません」
大石は戦術、戦略を超えた背骨をチームに貫こうとしている。哲学があれば年々の成績の上下に関わらず、崩れることはない。
学生の相談役となるメンターには大阪ガスLPGに勤めるOB河野(かわの)素明が就いた。41歳の兄貴分は常に笑っている。
「学生たちと一緒に考え、いけない方向に行こうとしたら助けるのが役目です。社会人として頑張れる素地を作ります」
主将の清水晶大(あきひろ)も首脳陣の考えに同調する。
「自分たちで考えることは学生スポーツでは重要。試合中の判断は自分たちでしないといけない。練習中からお互いが言い合って、試合と似た状態を作っています」
関西を代表する攻撃的SOは今年の目標を現実的に定める。
「まずは意地でも上位に入ります。2年前は関西優勝。去年は8位。関学は強いんか弱いんかどっちやねん、とみんな思っているはず。この1年は関学の未来がかかっています」
予定している新入部員は約40人。1月の全国大会で4回目の優勝を果たした大阪・東海大仰星からはCTB山本悠大とWTB中孝祐が入部する。大量入部が見込まれる高等部は全国8強に進出した。
先行きの明るさを感じながら、関学は現役とOBが一体となり、復活に取り組む。
(文:鎮 勝也)
【写真】 今年の関西学院大学首脳陣。左から、河野素明メンター、大賀宏輝監督、大石修ゼネラルマネージャー。