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 「2冠の秘密」 パナソニックワイルドナイツ・飯島均部長インタビュー 1

2016.02.26
 パナソニックワイルドナイツは2015年シーズン、トップリーグと日本選手権優勝の2冠を達成した。
 そのチーム所在地は群馬県太田市だが、運営の中心は本社のある大阪府にある。飯島均部長は大阪市内でインタビューに応じ、現場レベルの最高責任者としてチームやトップリーグの今後などを語った。
(このインタビューは2回構成)
 東芝とのプレーオフ決勝は東芝FBフランソワ・ステインのゴールキックが外れ、1点差での優勝(27-26)となりました。
 なんで勝てたのか分かりません(笑)。
 結論から言うと東芝は小川君(高廣、SH)を出し続けていれば勝った。後半29分で優秀なキッカーでもある小川君を替えたのは、ゴールキックで勝ち切るシナリオが東芝になかったのではないかと感じています。
 ウチは後半34分にベリック・バーンズ(SO)と山田(章仁、WTB)の切り札2人を万全の状態で出せたのが大きい。バーンズは太ももの肉離れ、山田は足首のねん挫で戦列を離れていたが、決勝では先発起用が可能でした。しかし、代役のヘイデン・パーカー(SO)と児玉(健太郎)がそれまできちっと仕事をしてくれていた。我々としてはその流れを断ち切るのが嫌でした。こちらの願い通りにうまく選手交代ができたと思います。
 あと、バーンズがドロップゴールを失敗(後半38分)した後、そのドロップアウトでリチャード・カフイ(CTB)が深く蹴った時は「勝った」と思いました。最終的にはモールアンプレイアブルで敵ボールになり、トライを獲られましたが、あのような状況(6点リード残り5分)でマイボールをキープすれば、どのように戦うかはしっかり準備がされています。競るキックを上げられ、東芝がボールを再確保する以外、東芝は勝利する可能性は無いと考えたからです。残り5分、両チームにいくつかのミスがありましたが、インゴール中央にトライを獲られていたら、負けていたでしょう。
 東芝からは薄氷の勝利でしたが、トップリーグは3連覇。日本選手権は帝京大を49-15で降しました。強さの理由は何ですか。
 チーム内にリーダーがたくさんいることではないでしょうか。
 FWは主将の堀江(翔太、HO)、西原(忠佑、FL)、劉(永男=ゆ・よんなむ、LO)、コリー(ホラニ龍コリ二アシ、NO8)、BKは田中(史朗、SH)、バーンズ、林(泰基、CTB)、北川智規(WTB)…。
 彼らはいかなる状況下においても修正能力を発揮する。年齢的に体力が向上することはありませんが、経験値は上がり、精神的にはタフになります。彼らが試合に出て、チームをよい方向に導いてくれます。
 そこに体力のある若手選手が絡み、チーム力はなかなか落ちません。
 そうですね。児玉(24歳)はボールを持っていない時の動きがずいぶんよくなりました。パーカーは25歳。1年目の布巻(峻介、FL、早稲田大出身)は体が強く、出場すれば試合にインパクトを与えます。同じく新人の水上(彰太、FL、筑波大出身)はめちゃくちゃセンスがある。体は大きい(185センチ、90キロ)のに手のひらの感覚はよい。彼のような選手は珍しい。
 この4月からWTB福岡堅樹(筑波大)、FB藤田慶和(早大)の日本代表をはじめ8人が新たにチームに合流します。プロ野球のドラフトを例にとれば1位選手ばかり。人気の秘密はなんですか。
 学生のニーズが変わってきている中で、ウチはそれに対応できているからだと思います。
 一昔前の学生は会社の規模、チーム所在地、年収や生涯賃金なんかを気にしていた。その部分はもちろん不変です。でも今はフェイズが変わり、「世界のラグビーに対してどうなのか」という部分を重視する学生が増えました。ウチは堀江や田中を見てもらっても分かるように、スーパーラグビー参加など、できるだけ学生の希望に応えるようにしています。
 パナソニックは、クセは強いが能力の高い選手を加入させ、チームとして組み込むことに定評があります。それはどのような信念に基づくことなのでしょうか。
 私自身がまっとうな道を歩んで来た人間ではありません(笑)。ウチに集まってくるのは自由度の高い人間が多い。
 昔のプレーヤーで例えれば、私より年齢が少し上の神戸製鋼の大八木(淳史、LO)さんやトヨタ自動車の八角(浩司、PR)さん。また、ウチの前身である三洋電機ならポポイ(タイオネ、NO8)さんなんかですね(この3人はすべて日本代表を経験する)。
 この人たちは基本的に自由な人、悪い言葉を使えば異端児です。日本の形式的社会にはあてはまらず、扱いにくいことも多い。でもそういう人間には才能がある場合が多く、その才能が形式的社会とぶつかるのです。
 異端児は組織に必要です。優等生ばかりだと環境変化にもろいですし、何より活性化していきません。異端児の排除は社会全体の損失だと思います。
 だからこそ、そういう人間を機能させるには我々首脳陣のチューニング能力が大切。個人の自由をチームの秩序にどう調和させていくか。個人対応の部分にはマニュアルはありません。管理する人間の度量が試され、私自身も勉強の日々です。
 今後のチームの課題はなんでしょう。
 「見えないものを見えるようになれるかどうか」だと思います。分かりやすく言うとチーム内の油断や不満やケガ等、そういうものを事前に発見できるように、私を含めてチーム全員が自分自身をより一層磨く、ということだと思います。
 新チームの始動はいつになりそうですか。
 今は個人練習中です。4月に入れば合同自主トレになります。全体練習は5月のゴールデンウィーク明け。スーパーラグビーに参加しているメンバーの帰還も含め、チームとしての本格的始動は6月以降になります。
 チーム全体が成熟し始めると、自分たちでやり始めます。始動時期を含め、遅くはないと思うし、心配はしていません。
 私自身は人生ラグビーだけでは駄目だと考えています。練習のない時は、仕事はもちろん、家族と過ごしたり、ラグビー以外のスキルアップのための勉強もしてほしい。そう思っています。
「日本から世界に挑む」 パナソニックワイルドナイツ・飯島均部長インタビュー 2
◆飯島 均(いいじま・ひとし) 1964年(昭和39)9月1日生まれ。51歳。現役時代はFL。東京都立府中西高から大東文化大を経て1987年に三洋電機に入社。現役時代は日本選抜(代表の下のカテゴリー)。1996年に現役引退。2003年W杯では代表FWコーチ。2期7年の三洋電機監督後、部長に就任。2011年、会社はパナソニックの傘下に入るが、その間も含め部長として6年目を迎える。
(取材・構成/村上晃一、鎮勝也)
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