ラグビーリパブリック

現場から生まれた「ラグビーノート」完成へ ラグビースクール指導者セミナー

2016.02.22
 関西ラグビー協会主催による「2015ラグビースクール(RS)指導者セミナー」が2月20、21日の2日間にわたり奈良県天理市で開催された。
 指導者の資質向上を目的としたセミナーは今年で7回目を迎えた。関西協会のホームページ(HP)を通して申し込んだ広島県や福井県など協会が管轄する西日本からRSの指導者20人が参加した。
 セミナーは20日午後、来賓用宿泊施設の天理教第38母屋での開講式でスタートした。
 神戸大学非常勤講師でひょうごジュニアスポーツアカデミー身体能力開発プログラムコーチの長野崇が「ジュニア期におけるコーディネーショントレーニング」のテーマに従って、講演と実技を行った。
 幼少年期には勝ち負けにこだわらず、身体能力や体格に合わせて、体全体のバランスや調整力を伸ばす指導方法が話された。
 参加者はバランスボールの上に乗ったりして、汗だくになりながら、トレーニングに向き合っていた。
 2日目の21日には、午前中に講習の目玉となる講演が行われた。
 2012年のロンドンオリンピック(五輪)柔道100キロ級代表で、現天理大学監督の穴井隆将が「他競技に学ぶ」という題で、約1時間30分、努力の大切さを訴えた。
「世の中、報われない努力はたくさんある。しかし、自分にとって無駄な努力は1つもない」
 自身は金メダルが有力で人生を賭けた五輪で2回戦敗退。「努力しても無駄」と感じ、所属する全日本柔道連盟に強化選手辞退を伝え、現役引退を考えた。しかし、年長者の「勝って終われ」の言葉を受け、翌2013年4月の全日本選手権に出場。体重に関係なく、国内で一番強い柔道家を決める大会で4年ぶり2回目の優勝を果たす。
 講演にはその経験が盛り込まれていた。
「指導者の方には子どもたちの瞬間、瞬間ではなく、将来を見据えて育てていただきたい。人はいつ花開くかわからない。仮にラグビーや柔道で花開かなくても、立派な学生や社会人、そして指導者になればいいと思う」
 穴井の講演後には、日本協会普及・競技力向上委員会の小学生担当責任者である北畑幸二がプロジェクターを使って、「ラグビーワールドカップ(RWC)レガシー」を説明。
 昨年のイングランド大会での競技人口の増減や経済効果などを話した。
「大会後の日本のRSにおける小学生の競技人口は442人のプラス。年度途中なので正式に登録していない子どもを含めれば、もっと多い。増員はこの世代だけ。みなさんが先頭に立って、たくさんの子どもたちをラグビーに引き込んで、続けさせていただきたい。ラグビーの普及・発展にはここが一番大切。追い風をまずは2019年につなげたい」
 第1回のセミナーから現場責任者として参加している北畑は3年後のRWC日本開催をにらみ、言葉を発した。
 その後は前日に引き続き、5つのテーブルに分かれ、体調管理、保護者との連絡などを含めた「ラグビーノート」作成が行われた。ここには、県協会公認のスタートコーチ9人もブラッシュアップ(資格認定後の磨き上げ)の名目で参加した。
 昼食をはさみ、午後からはグループごとに考えた「ラグビーノート」を模造紙に書いて、発表した。これら5案を参考に意見を出し合いながら理想的なものを作り上げた。
 後日、完全版が協会HPにアップされる予定。希望者はここからダウンロードしてプリントアウトできる仕組みにする。
「RSでは指導員が経験したことを押し付ける一方的なコーチングが多い。そうではなく、みなさんで考えて、よりよいものを作り出して、それを使っていく。それがこのノート。よいものができたと思う」
 現場からの声を吸い上げ、完成したノートを見やりながら北畑は話した。
 大阪・豊中RSから参加した北浦友治は60歳。1980年に創部されたトップリーグ、サントリーサンゴリアスの創成期メンバーの1人である。主にCTBとして大阪府立北野高校から関西学院大学を経て、サントリーに入社した。昨年9月に定年退職。新年度にあたる今年4月から本格的に指導員に就任する。
「すべてが新鮮。子どものことは何も分からないから、こういう講習があってありがたい。まずは少しずつでもいいから自分の指導に生かしていきたい」
 ホスト役をこなした県協会理事長である森田晃充は言う。
「このセミナーがあって、奈良のスクールの生徒は大きな声であいさつができるようになってきた。礼儀の面からも見てもよくなってきている。これからも学校以外でもラグビーという居場所がある、という意識を固められるようにしていきたい」
 県の実務トップ者からは満足感が漂っていた。
(文中敬称略/文:鎮 勝也)

講演を行った天理大学柔道部の穴井隆将監督