高忠伸は35歳だ。
近鉄ライナーズFBは1980年9月13日生まれながら、年齢を感じさせない。
ピンポイントの60メートル級キック、ライン参加時の瞬間スピード、空中遊泳するハイパントキャッチ、ヒザ下に刺さるチョップタックル…。どれをとっても一級品だ。
同僚のトンプソン ルークは言う。
「日本代表に入っても問題ない。普通にやれる。オールラウンドプレーヤーだし、後ろからの指示も的確。リーダーシップもある」
1歳下のトンプソンは3大会連続W杯出場。2015年は全4試合に先発し、南アフリカ撃破など3勝1敗の原動力になる。
ワールドレベルを体感し続けてきた大型LOからは賛辞があふれる。
高はノンキャップ。代表への思いはある。
「プレーヤーをやっているうちは狙いたい。そこは主張していかないと。『もうええか』と思ったら成長は止まってしまいます」
同ポジションのスター、五郎丸歩に対する質問が飛ぶ。
「負けていると思うか?」
即答する。
「そうは思いません。思いたくないし、思ったらアカン。リーグで対戦するんやし」
ミスターラグビーになったヤマハ発動機ジュビロの5学年下にも気後れはない。
「年齢は代表の当落に加味されるんやろうけど、僕は気にしたことがない。いつもフレッシュな状態でいますから」
30代に入り、プレーや体作りのベースになる食生活に気を遣う。本やインターネットで独学。知識は栄養士並みだ。
2年前からサバ、イワシなど焼いた青魚中心の食生活。ビーフやポークよりも消化によいとされるタンパク質摂取を考える。鉄分含有量が高いあおさも好む。タンパク質は筋肉を作り、鉄分は老化を防止し、病気に対する免疫機能を維持する。
昨年からは植物油に含まれるオメガ3脂肪酸の摂り込みに力を入れた。
「プロティンにかけたりしています。抗酸化作用があって、体が活性化される。調子は毎年いいんですよね」
現在の体重は80キロ。
「体脂肪率は計ったことがないけれど、指で二の腕の下をつまむやり方なら、その%はチームで一番低いと思います」
今年、単身赴任5年目を迎える。家族は横浜。前所属のIBM時代に社内恋愛を経て結婚した。妻・洋子は仕事を続けている。子供は2人。7歳の凜太郎と2歳下の宗太郎。長男は横浜ラグビースクールに通っている。
「嫁さんには頭が上がりません。働きながら、しんどい子育てを1人でやってくれている。それがなければ、ここまでラグビーに集中できませんでした」
高は凜太郎と同じ年頃、小学2年で大阪ラグビースクールに入った。両親の仕事の関係で横浜に引っ越し、桐蔭学園から帝京大に進む。IBMで6年、近鉄では7年目。トップレベルの戦歴は申し分ない。
2008年11月、当時の代表ヘッドコーチ、ジョン・カーワンからスコッドに呼ばれた。28歳の高は、紅白戦で立川剛士(東芝FB)と1対1になり、得意のハンドオフで飛ばされた。その後の面談で落選を言い渡される。
「僕みたいなプレーヤーはワンチャンスをものにせんとアカン。でもそれができなかった。『ああいうところでタックルミスをしてほしくない』と言われました」
記憶が薄れないのは、自分の弱点を見つめ続けてきたからだ。その後8年、近鉄で「最後の砦」を守れたのは、ディフェンスの成熟を意味する。キックに対するポジショニング、ギャップへの適切な上がり、ラグビー歴28年の経験値の高さが息づく。
日本代表ヘッドコーチはエディー・ジョーンズからジェイミー・ジョセフに代わる見込み。
ジョセフは日本での現役時代、宗像サニックスブルースに所属した。このチームは伝統的にサイズという身体的才能に重きを置かない。173センチと身長の低い高にとっては追い風が吹く可能性はある。
今月9日(土)からLIXIL CUP 2016(トップリーグ 1〜8位決定トーナメント)が始まる。リーグ戦のグループAを3位で通過した近鉄は、同グループB2位の神戸製鋼コベルコスティーラーズと対戦する(愛知・パロマ瑞穂ラグビー場、午前11時40分キックオフ)。名古屋での「阪神ダービー」に高は腕ぶす。
「神戸はラグビーを始めてからの憧れだし、強くないとリーグが盛り上がりません。ウチはそこを越えて4強に入らんとアカン」
勝利は、自身の初代表入りに向けても完成度の高さのアピールになる。
2016年。ベテランは今以上にワンプレーに魂を込める。
(文:鎮 勝也)
■写真:近鉄ライナーズの高忠伸(写真中央/撮影:BBM)