ラグビーリパブリック

イロハの笑顔、花園に咲く。鹿児島の女子ラグビーをもっと、もっと。

2015.12.28
U18花園女子15人制の試合に出場した鹿児島工の岸本彩華(撮影:早浪章弘)
 ピッチを見つめる人たちの誰もが「おお、やるなぁ」と口にした時間になった。12月27日に開幕した全国高校大会(花園)。その開会式直後におこなわれたU18花園女子15人制の試合だ。勇気あるタックルが相次いだゲームは接戦となり、12-5でWESTがEASTに勝った。選手たちの思いが伝わるプレーの連続に、スタンドからは大きな声援が届いた。
 ラグビーの広がりを感じさせる、毎年の花園での女子試合。若い女子選手たちが増えてきたとはいえ、まだまだ彼女たちの向上心を満たす環境が整っているとは言い難い。この試合に参加した選手たちの日常も様々だ。女子ラグビー部として活動している中に身を置いている者、男子部員とともに汗を流す者、個人で、クラブチームで…と、それぞれだ。
 WESTのFLとして後半から出場した岸本彩華(きしもと・いろは)は、鹿児島工業高校ラグビー部に所属し、毎日の練習に参加している16歳だ。鹿児島県協会に女子ラグビー部門が発足して6年目。同県から初めて花園に立つ少女が出た。
 現在高校2年生の岸本は中学2年時にラグビーを始めた。兄・誠一郎さんがラグビーによって成長していく姿を見て、このスポーツの力を感じたからだ。
「すぐに仲間ができる。そして、どれだけ激しく戦っても試合が終われば仲良くなれる。ラグビーの、そんなところが好きなんです」
 日々全力を尽くして花園出場を目指している鹿児島工ラグビー部の雰囲気に憧れて、自分も同校に入学、クラブに入った。男子部員と同じ練習メニューに取り組み、基礎を鍛えてきた。1学年下に女子部員の後輩がひとりいる。
 今回の試合のメンバーに選ばれたのは夏の『KOBELCO CUP 全国高校女子合同大会』と、11月23日に東京・江戸川陸上競技場でおこなわれた『全国女子ラグビーフットボール選手権大会 高校の部』でのパフォーマンスが認められたからだ。積み重ねてきたことが評価されて大舞台に立つことができて、「凄く楽しかった」と夢の時間を振り返った。
「第1グラウンドで緊張しましたが、だんだん慣れてきて、みんなとプレーできる時間を楽しめました。選ばれた責任感も感じてプレーしました」
 腕に付けたリストバンドに「笑顔」と書いたのは、鹿児島工ラグビー部の先輩や仲間に、「イロハの武器は笑顔だ、と言われたからなんです」。得意のブレイクダウンエリアに頭を突っ込み続け、逆転勝ちを手にして笑った。高校を卒業しても、大学でラグビーを続けたいと思っている。
「最近はセブンズのおもしろさも分かってきましたが、もともと15人制のラグビーが大好きなんです。将来は日本代表になれたらいいですね」
 兄も踏んだ花園の芝の上に立ち、楕円球への思いはさらに強くなった。
 鹿児島は男子セブンズ日本代表や東芝が強化キャンプを張る場所で、岸本自身も「多くの刺激を受ける機会もあって有り難い」と話す。同代表のキャプテンを務める桑水流裕策は鹿児島工の卒業生。母校を訪れ、後輩たちにアドバイスをおくったこともある。岸本もその場にいてトップアスリートの熱を感じた。
 もっと多くの女子がラグビーをやってくれたら鹿児島の女子ラグビーも盛り上がるのに、と思うこともある。週に一度おこなわれる女子の練習会には20人ほどが集まるが、他競技をやりながらの掛け持ち選手が多いのが実情。もっとラグビーに熱中する人を増やしたい。
「そのためには、自分がこういうところでプレーしたこと、私たちがやっていることを、より多くの鹿児島の人たちに知ってもらうことだと思っているんです。だから、積極的にいろんなことに参加していきたいし、もっとうまくなり、活躍したい」
 そう言ってニコリと笑った。
 笑顔とタックルが武器のFLは、鹿児島の女子ラグビーを牽引するパワーにあふれている。
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