攻める筑紫と守る東京朝鮮(撮影:松本かおり)
球を動かす筑紫高(24年ぶり5回目)とモールにこだわる東京朝鮮高(初出場)と、好対照のクラブが激突。12月28日、大阪・花園ラグビー場。第95回全国高校ラグビー大会の1回戦は接戦だった。26-19。つば競り合いを制したのは筑紫高だった。
東京朝鮮高は前半6分、敵陣ゴール前左のラインアウトモールからNO8文相太がトライ。コンバージョン成功に伴いスコアを7-0とするが、その後は苦境に立たされる。13分にFB権泰鍚が自陣ゴール前で相手の首元へ飛びつく。7-7とされた直後だった16分のキックオフでは、FL南成冠が捕球のためジャンプした選手へタックル。2つとも危険なプレーと判定され、相次ぎ一時退場処分とされた。
数的優位を得た筑紫高は、3月のニュージーランド留学で学んだポッドシステム(左右に選手が散らばる陣形)を活かし、大きく球を振った。CTB武谷京佑主将はこうだ。
「それぞれが決められた場所へ行けば(ポジショニングすれば)ポッドは形成される。意外とシンプル。どこが空いているのかを見て、展開しました」
18分にはグラウンド中盤で、左隅から右隅へ展開。次は右隅からフェーズを重ねて左隅へ進み、接点の周辺をPR北勇人が突っ込んだ。14-7。続く22分にはやはり振り子の攻撃で、FB青木悠紀のトライを誘った。19-7。
東京朝鮮高は、劣勢に立たされていた。PR文陽善主将はどう思ったか。
「難しい状況のなかでも笑顔に、と。ピンチを楽しめと皆で言いながらやっていた。苦しくはなかったです」
そう。ぶれなかった。点を取られても「想定内だ、と皆を平常心にさせてプレーしました。トライは変えられないけど、いまは変えられる、と」。前半27分には敵陣22メートル付近左のラインアウトからモールを組む。塊を割ろうとする相手をLO慎昌徳がブロック。前に進む。ゴール前でラックを連取し、最後は中央でモールを組んだ。19-14と追い上げる。
後半4分頃の敵陣ゴール前左でのラインアウトモールは、相手のタックルを防いだ動きが「オブストラクション」とされたが、後半19分、「ゴーフォワード」とPR文陽善主将。縦長のモールを組み込み、最後はNO8文相太がトライを決めた。19-19。
「死に物狂いでモールを練習してきた。ここで取らなければ…」
筑紫高は、追い上げられた。しかし、CTB武谷主将もまた動じなかった。
「皆が焦り出す場面だったけど、何人かが冷静に声かけをしていた。次のキックオフから切り替えられました。日頃の練習で、リードされている場面、している場面を想定して練習している。その辺のメンタルコントロールはできていたと思います」
終盤はフォワードにこだわる。接点に人数をかける。東京朝鮮高がオフサイドの反則を取られると、26分、今度は筑紫高が敵陣ゴール前左ラインアウトからモールを組んだ。NO8久保山幸樹がインゴールを割る。26-19。最後の最後はラックを重ね、球を外へ蹴り出してノーサイドの時を迎えた。
全国大会への道は、ずっと昨季王者の東福岡高に阻まれてきた。記念大会の特別枠設置に伴い出場権を獲得した今回、CTB武谷主将は「花園の決勝で東福岡高さんと戦いたい」と意気込む。30日はシード校の大阪桐蔭高(4年連続10回目)とぶつかる。
かたや敗れたPR文陽善主将は「力を出し切ったことに後悔はないんですが、同胞やいろんな方のサポートに応えられなかったのが残念です」。同じ朝鮮学校で花園常連校だった大阪朝鮮高は、府予選で敗退。東京朝鮮高のサポートに回っていた。
PR文陽善主将は最後に、筑紫高のロッカールームへ赴いた。自分たちのために織ってもらっていた千羽鶴を渡しに行った。思いを託した。
(文:向 風見也)