9月23日、イングランドはグロスターのキングスホルムスタジアム。スコットランド代表戦を10-45で落とした日本代表のPR稲垣啓太は、浮かない顔で首を傾げていた。
結果に対して、そして、先発しながら前半40分で交代させられたことに対して、である。
「前半で脳震盪のテストを受けてるんです。それで…(大事を取る形となった)。もう、大丈夫なんですけど」
退くまでは、出色の働きを披露した。0-3で迎えた前半5分頃。ハーフ線付近でのスコットランド代表ボールラインアウトの周辺で相手を倒し、すぐさま左隣の接点へ移動するやターンオーバーを決めた。相手を身体の芯で捉えるタックルの技術と、そのタックルを放った直後のリアクション…。持ち味を活かした。
「スティーブ(・ボーズウィックFWコーチ)とも話していて。目標を掲げていたんです。1試合17本、と」
イングランドでのワールドカップ(W杯)のプールBで3勝を挙げた日本代表にあって、PR稲垣は確かな存在感を示した。今季は南半球最高峰であるスーパーラグビーのレベルズ(オーストラリア)でもプレーした新潟県出身の25歳。身長は183センチで、体重は自己申告で「120キロ」。海外で互角に戦うためのフィジカルを、ここ数か月で仕上げてきていた。
結局、スコットランド代表戦ではたった40分間で「9」のタックル数を記録(成功率は100パーセント)。続くサモア代表戦ではフル出場を果たした(ミルトンキーンズ・スタジアムmk/○26-5)。タックル数は「10」をマークした(成功率は71パーセントも、前半26分頃の自陣22メートル線付近での1本など相手の懐へ食い込むものが多数)。
前半21分には、敵陣ゴール前左中間でのスクラムでペナルティトライをもぎ取る。対峙する「190センチ、135キロ」のPRセンサス・ジョンストンに引きずり落とされそうになるなか、耐え、押し切った。
「相手が落としてきた時、前までなら『あ、ペナルティがもらえる』と感じていた。ただ、あそこは『もう少し押せば認定(ペナルティトライ)』が取れると思いました」
関東学院大の主将を務めた2012年は、加盟していた関東大学リーグ戦で下部降格の憂き目にあった。それでも「自分の実力はこんなものではない」と内なる自信を秘めていた。翌年度はパナソニックで国内最高峰トップリーグの最優秀新人賞を獲得し、ジャパンの座を掴んだのだった。
大会前、こう言っていた。
「(W杯のメンバーに)選ばれて嬉しいということは、ないです。もともと…(自分が)出るものだと思っていたので。結果を残さなきゃいけない。日本のためとは皆、言っていますが…。自分のためにやることが派生して、日本のためにもなるのだと思う。自分の責任を全うしないと、国を背負うことはできない」
戦いを終えるや、「W杯は過去のこと」と話す。そう。このアスリートは、常に自分の未来を見据えてきた。むき出しの言葉で気持ちを語るのは、合理的かつ真っ直ぐな競技生活を志すからだろう。
10月11日、またも場所はグロスター。アメリカ代表とのプール最終戦を28-18で制した直後のことだ。
「…このフィジカル(W杯のように世界最高峰の負荷がかかる戦い)だと、フィットネスがきついところがあった。疲れてくると、足が出てこなくなる。そこで左右に(ステップを)切られると、足が出てこなくなる。飛んじゃう(苦し紛れに相手に飛びつかざるを得なくなる)んです。それは、これからの課題でしょうね」
この日は7本あったタックルの成功率を100パーセントとしている。活躍したばかりなのに、もっと活躍するための課題を見つけていた。