(Photo: Getty Images)
11日、グロスター・キングスホルムスタジアム。アメリカ代表戦を28-18で制したラグビー日本代表は、グラウンド上で大きな円陣を組む。4年に1度おこなわれるワールドカップ(W杯)のイングランド大会で、チームは予選プールBで3勝目を挙げた。しかし目標だった準々決勝進出(ベスト8)は叶わず、この日が最後のゲームとなった。
「ベスト8には行けなかった。でも、自分たちの立てた細かい目標はクリアできた…と。まずはコーチ陣に感謝して、これを2019年(次回の日本大会)にどうつなげるかの話を皆でして。あとは、日本に帰ってからどんな態度でいるかという話をしました」
輪の中の様子をこう振り返ったのは、FLリーチ マイケル主将だった。自らが話した「どんな態度でいるか」については、後にこう明かした。
「あまり天狗にならない、近くにいる選手を大事にする、日本代表がどんなチームだったかを伝える…と。自分のチームメイトが、トップリーグ(国内最高峰リーグ)の全員が日本代表になりたいと思えるようにしたいです」
札幌山の手高、東海大を経て東芝入りした27歳。今季は南半球最高峰スーパーラグビーのチーフスでレギュラーとして活躍した。「1週間の予定を立てる。何もすることが決まっていないなか行動するのはちょっと…」。持ち前の自律心も手伝ってか勤勉なプレーぶりを確立。今大会では36回のゲインライン突破数、51回のタックル数を記録した。いずれも予選プール終了地点で全選手最多だった(タックル数はイタリア代表のFLフランチェスコ・ミントと同数)。
ジャパンの主将としては2014年の就任以来、FLリーチは「主体性」を強調した。SO/WTB廣瀬俊朗前主将の助言を受けながら、FB五郎丸歩、HO堀江翔太の両副将らとのリーダーシップグループで対話を重ねてきた。指揮官の打ち出したプランを咀嚼したうえで、試合中に連携を図って有事に対応する…。そんなチームを、FLリーチ主将は作りたかった。東海大時代の同級生であるPR三上正貴に「あいつは大学の頃から学生同士で仕切るチームにしたいと言っていた」と見守られるなか、「主体性は、W杯に入ってからはがっと成長した。自分たちでミーティングをして、ゲームプランを理解して、俊朗さんが相手チームの分析…そこは、もともとずっと成長していて、W杯でも成長した」と語っていた。
チーム作りに大きな影響を与えた1人に、SH田中史朗を挙げた。スーパーラグビーの日本人選手第1号としてハイランダーズに在籍。選手はもちろん指揮官にも思ったことを口にする、苛烈な負けん気の持ち主だ。FLリーチもチーフス入り後にしばしニュージーランドでSH田中と会談。日本代表のこと、日本ラグビー界のことを話し合った。
「フミさんはチームに対する情熱を持っている。海外の経験値がある。それをストレートに伝えてくれる。ありがたい。彼の存在は、今までの日本代表にはないものでした」
――言っていることは間違いない。ただ、それを正しく伝えるには皆のサポートも必要かもしれない。あなたはどうしましたか。
笑みを浮かべ、正直に語る。
「フミさんのことを大事にしなきゃいけないんだ、と自分から示していきました。彼の発言、最初に聞くと腹立つんですけど…話し合って、お互いの気持ちを理解すると、またチームが強くなる。僕にとってはプレッシャーをかけてくれる存在。なかなか周りはいろいろと言ってくれないから、それがありがたくて」
いわゆる「我慢の限界」も訪れかけたことはあったが、「1日は気まずかったけど、また話し合って…」。思考回路のサラダボウルを、絶妙な味付けの組織に昇華させた。
ここまで4年間、指揮を執ったエディー・ジョーンズ ヘッドコーチはチームを去る。体制が変わるなか、いまのチーム状態をスタンダードにするには…。船頭役は明確に答えた。
「プランを持つ。目的を持つ。この2つ。常にやらないといけない。ただ走るんじゃなく、何のために走るか…。何のために○○さん(スポットコーチやレフリー)を(チームの合宿に)呼んできているのか…。そういう目的意識を持つこと、大事にしなきゃいけない。次のコーチはプレッシャーがあると思う。でも、このチームの良さは主体性。次のコーチと話し合ってチームをどう運営していくかを決めていきたい」