エディージャパンにとって最後のゲームだった。
「始まる前、ロッカールームでチームトークの際、エディーさんが涙ぐみながら、『プライドを持って、しっかり戦おう』と話をしました。試合前にエディーさんがあんなに涙ぐむのを見たのは初めて。選手はそれでちょっと気合を入れすぎたかもしれない」
堀江翔太はそう言って笑った。ラストゲームとなったアメリカ戦の立ち上がり、少し押され気味だったが、きっちり修正して28-18で制し、勝ってすべてを終えた。ワールドカップで3勝1敗という好成績を残しながらもプールステージ敗退となってしまったが、世界中がラグビー日本代表を称賛した。
アメリカとの激闘後、畠山健介も、日和佐篤も泣いていた。プールステージでスコットランド代表のグレイグ・レイドローに次いで2番目に多い58得点を記録(テストマッチ通算700得点を突破)した五郎丸歩は、今大会2回目のマン・オブ・ザマッチに選ばれ、そのインタビューで「このマン・オブ・ザマッチは、本当にチームの……」と言って言葉を詰まらせ、男泣きした。
試合後の記者会見、あなたにとって日本代表を指揮する最後の試合になりましたねと訊かれたエディー・ジョーンズ ヘッドコーチは、「きょうの試合は、私のラストゲームに関するものではなく、選手たちの試合だった。本当にすばらしかった。チームの成長を示してくれた。大会4戦で3勝という成績は、リーチをはじめとした選手たちのハードワークの結果です」と言った。
日本代表がバスでスタジアムに到着したとき、多くのファンが待っていた。指揮官は笑顔で振り返る。
「歓声がすごくて気分がよかった。この日本代表のように、日本人ではない人たちが日本の国旗を振って応援してくれるチームになることは、なかなかできることではない」
世界のラグビーファンやメディアは、ラグビー日本代表を「ブレイブブロッサムズ」と呼ぶ。勇敢な桜のジャージーの男たち。彼らの勇姿はいまや、これまでラグビーに興味のなかった人々の胸をも熱くさせ、日本中が盛り上がっていることはジョーンズ ヘッドコーチの耳にも届いていた。
「今夜はたぶん、3000万人が日本で(テレビで)見ていたと思う。3000万人といったら、オーストラリアの総人口にカンガルーやニュージーランド人を足した数だ。そのなかには、子どもにラグビーをプレーしてほしいと思った親もいるはず。見ている子どものなかには、次のリーチになりたい子どももいるだろうし、鏡の前でこんなポーズをして五郎丸のキックを真似している子もいるだろう。日本ラグビー界にとって、新しい世代の選手、ファン、ヒーローを獲得するための素晴らしい機会。この選手たちはいまやヒーローです。彼らは日本ラグビーのイメージを根底から変えた」
ジョーンズ ヘッドコーチがヒーローと呼んだ日本代表のリーチ マイケル主将は、ワールドカップのプールステージで、どの選手よりもボールを持ってゲインラインを越え、タックル回数でもランキングトップとなった。指揮官は「もし現時点でベストフィフティーンを選出するならば、彼は今大会のベストナンバー6として考えられるべき選手です」と、ハードワーカーのリーチを絶賛した。
リーチはプレーヤーとしてだけでなく、主将としても頼りになる男だ。
「土曜日の夜、準々決勝に行けなくなったけど、自分たちのプライドがモチベーションでした。プールステージの最後の試合。世界にどんだけ日本がすごいか見せよう、と。日本で見ている人たちにも、ラグビーというスポーツのすばらしさを見せよう、と言いました。試合が終わった瞬間に思ったことは、『本当に勝ってよかった』と」
試合後、スタンドのファンにあいさつを終えたあと、日本代表はグラウンドの中央で円陣を組んだ。リーチは振り返る。
「この4年間で、ベスト8という目標は達成できなかったけど、自分たちで立てた細かい目標は全部クリアできた。コーチ陣に感謝して、どうやって2019年(ワールドカップ日本大会)につなげるかということを話しました。チームをとても誇らしく思います。2019年へ向け、ファンを獲得できたと思う。ファンのサポートが続いてくれることを祈ります。ワールドカップでの経験はファンタスティックでした」