イングランド南西部の静かなカントリーサイド、エクセターにも、ラグビーワールドカップの熱気が訪れた。9月29日、畑の肥料のにおいが風に乗ってほのかに漂うサンディーパークの夕方、超満員の1万103人がトンガ代表とナミビア代表に声援を送り、闘志あふれる白熱戦に歓声をあげた。会場には、陸上短距離界のレジェンドでナミビアの英雄、フランキー・フレデリクスの姿もあり、興奮しながら母国の小旗を振っていた。
プールCで黒星発進していた両チームの戦い。どちらも優勝候補ではないかもしれないが、6大会連続7回目の出場となるトンガは初のベスト8入りを、5大会連続5回目出場のナミビアは悲願の初勝利をめざしており、互いに集中力高い、必死の80分だった。
ファイナルスコアは35-21。フィジカルとスピードで上回るトンガが制した。5トライを挙げてボーナスポイントを獲得し、1勝1敗(勝点6)としたトンガはプールCの2位に浮上し、準々決勝進出に望みをつないだ。ナミビアはワールドカップ17戦目の挑戦だったが、勝利の美酒を浴びるのは今夜ではなかった。
この日、最も会場を沸かせたひとりはトンガ代表WTBテルサ・ヴェアイヌだ。前半6分、ラインアウトからのアタックでハーフウェイ中央を抜け出し、スピードに乗る。ゴール前で捕まりながらも体を回転させてインゴールにボールを押さえ、チームを活気づけた。
赤いジャージーの11番を着たこの男は、前半ラストに右コーナーに飛び込んだプレーではトライを認められなかったが、後半早々に自陣からビッグゲインし、FLジャック・ラムのトライを演出する。56分にはFWの頑張りをきっちりフィニッシュし、勝利を引き寄せた。
闘将、FL/NO8ニリ・ラトゥは負傷で不在だったが、代わりに7番をつけたラムはパワフルな突進などハードワークを続け、マン・オブ・ザマッチに選ばれている。
一方、序盤から相手にプレッシャーをかけ続けたナミビアだが、なかなかボールがつながらず、ブレイクダウンとスクラムでは劣勢だった。それでも、前半18分にはタックルで相手の落球を誘い、ボールを手にした身長2メートルのLOチウイ・ウアニヴィが必死に前進、WTBヨハン・トロンプにつないでトライが生まれた。後半にはラインアウトからの力強いモールドライブで2度ゴールラインを越え、一時11点差とした終盤は押し気味だった。
「身体能力が高く大型チームのトンガ相手に、全力を尽くしてくれた。私が興奮する場面も何度かあった」と選手を称えたナミビアのフィル・デーヴィス ヘッドコーチ。アマチュア選手が多いチームだが、しかし、ワールドカップでの勝利という目標を達成するために、厳しい言葉も口にした。「選手の努力を批判することはできないが、もう少し精度が必要だ。そうすればいま以上に安定したプレーができる。まだ2試合残っている。なんとしても念願の1勝を挙げたい」。
勝ったトンガのマナ・オタイ ヘッドコーチは目標に一歩前進したことで、控えめに笑顔も見せた。「ジョージア戦のあとも『夢は終わっていない』と言い続けた。勝点5を獲得できたことで、夢の実現へ向けて一つのステップを踏めたと思う。私たちに重圧をかけてきたナミビアも称えなければならない」。
プールステージはこれで、出場全チームが2試合ずつ消化した。8強入りをめぐる争い、それぞれの目標に向けての戦いは、10月1日からますますヒートアップする。