ラグビーリパブリック

あくまでも打倒・東福岡! 鹿児島で鍛えるチャレンジャーたちの夏。

2015.08.24

スクラムからボックスキックを上げる原田。変幻自在のポジショニングが売り。

(撮影/磯畑裕光)

 野球に例えるならば、このようになるだろう。
 夏の甲子園・西東京予選決勝、春の選抜にも出場した東海大菅生は早稲田実業に大逆転を許し、6-8で惜敗した。部員たちは夢の舞台に立てないことを悔やみ、泣いた。ところが後日、主催者側から「あなたがたは実力もあり、健闘したので甲子園の出場権を与えます」との吉報が届く。
 これが現実になるのが、今秋の花園予選だ。
 日本協会から「第95回全国高校ラグビー大会」の「記念大会枠」についての発表があったのは7月2日だった。選考基準としては、このように記されている。
「地方予選決勝において強豪校に僅差で敗れ全国大会に出場できない高校に出場機会を与えることを目的に、全国大会で過去10年間にベスト4入りの実績を持つ高校が所属するブロック(関東・近畿・中国・九州ブロック)に各1校出場枠を増枠する。増枠する都道府県については、各ブロックの高等学校体育連盟ラグビー専門部が決定する」

 この選考で最も注目されるのは、九州ブロックの福岡予選ではないだろうか。なにしろ決勝を57-5と圧倒した前回大会を含め、ここ8年で5度の花園制覇を果たしている「絶対王者」東福岡が15年間連続で福岡県代表として出場している。この間、熱血・西村監督(現在は退任)に率いられた筑紫を筆頭に、昨春の九州大会予選で東福岡の県内公式戦無敗記録をストップさせた修猷館、その修猷館と「永遠のライバル」関係にあり、現日本代表WTBの福岡堅樹を輩出している福岡(福高)、同じく現代表WTB山田章仁を輩出の小倉、大型CTB中野を擁して今春の全国選抜大会に初出場した東筑、創部から間もないながらも着実に力を蓄える東海大五などがヒガシ(東福岡)の分厚く高すぎる壁の前に涙を飲まされてきた。
 ただし、その決勝が大味な試合になることは少なく、計10度以上も決勝に進んではヒガシに敗れている筑紫との対戦をはじめとし、ファイナルはいつも熱を帯びたものになる。当事者たちは、この「記念大会枠」について、どう感じているのだろうか?

 鹿児島県さつま町の「かぐや姫グラウンド」は、地元の鹿児島実業や長崎北陽台、名護(沖縄)など県内外の約20チームが夏合宿を張る九州版「ミニ菅平」だ。8月中旬、福岡から現地入りした修猷館の真鍋監督と東筑の畑井監督に尋ねると、記念枠が九州に割り当てられること自体は、4月の段階から関係者のつてで耳にしていたらしい。「でも」と両監督は口を揃えた。
「それが福岡に決まったわけではないでしょう」
 修猷館の主将、SH原田健司も口にした。
「福岡から2校なら可能性は広がるけど、でも、結局は福岡で一番にならないと確実ではないので」
 原田は、昨年春の九州大会・福岡予選での準々決勝でヒガシに土をつけた貴重な経験を持っている。
「あの時は、いつもと全然違っていて、負ける気がしない不思議な感じでした。最後まで前に出続けて、気持ちが一つになってました」と語る。

 その後、修猷館は勢いに乗り、大会を57年ぶりに制した。決勝は小倉を17―14の僅差で破る激闘だった。県内随一の進学校が、あの「ヒガシ」に勝ったというニュースは福岡を駆け巡り、地元紙でも大々的に取り上げられた。真鍋監督も「あれよあれよという間に大騒ぎになっちゃって」と笑う。新旧OBたちも、「今年こそ37年ぶりの花園へ」と激励と愛情を後輩たちに贈った。九州大会の決勝こそ佐賀工に敗れたものの、チームは着実に力をつけ、秋の花園予選でも決勝に進んだ。相手ははもちろん、春に勝ったヒガシ。
 だが、結果は0-59の完敗だった。
「自分たちの100%の力が出せなかった試合だとしても、相手が全然上手でした」(原田)
 それはそうだろう。2か月後の花園の決勝戦、ヒガシは御所実を相手に52点差という決勝最多得点差記録で圧倒した。修猷館が眠ったヒガシを叩き起こしてしまった感もある。
 今春の九州大会・福岡予選は、準決勝で筑紫に惜敗し、大会連覇はならなかった。夏のアシックスカップ福岡予選(7人制)でも決勝で筑紫に連敗。
「セブンズの時もそうでしたけど、最後のツメの段階で取りきる力がない。チーム全員が考え方を理解して、トライにつながる道筋を見つけなきゃと思っています」
 しかし、九州大会予選の3位決定戦で「ライバル」福高を再び破ったことで、秋の花園予選は2位の筑紫とともにヒガシとは逆のブロックにまわる公算が高くなった。当面のターゲットは筑紫となるか?
 修猷館高校ラグビー部は今年、90周年のメモリアルイヤーでもある。原田は「去年よりも戦力が落ちるとは言われてきて、プレッシャーは、すごい感じてます。でも、チーム全体の形としては少しずつ出来てきていると思っています」と顔を引き締めた。

自ら突破するだけでなく、相手マークを引きつけてのパスも光った中野。
(撮影/磯畑裕光)

 一方の東筑にもプライドがある。17年前、それまで6年連続で出場していたヒガシに代わって花園に出場したのが東筑だった。翌年も福岡予選を制し、2年連続出場。ただし、その後はヒガシの天下が15年間続いている。次にヒガシを止めるのも東筑であってほしいと願う北九州市の関係者の声も根強い。
 東筑が誇るエースCTBの中野将伍は、昨夏は中国・南京で行われたユースオリンピックに参加していたため、2年ぶりの来鹿となった。今年2月にはフィジーで行われた「パシフィック・チャレンジ」に当時の高校2年生として、ただ一人参加している。現役高校生としては唯一の経験者だ。
 中野は0-83と完敗を喫したフィジーA戦に、ジュニア・ジャパンの一員として先発出場した。
「メンバーに選ばれた時は、うれしいと同時に緊張もしました。自分の強みはフィジカルの強さだと思っていたんですけど、個人的にもチーム全体としても、まだまだ全然スキルやスピードでついて行けませんでした」
 しかし、中野がチームに戻っているあいだの東筑は強い。冬の新人戦、東筑は決勝まで駒を進め、ヒガシに前半は7-10と食らいついた。後半は0-39に抑えられたものの、福岡2位として九州新人大会に出場し、4位となった。そして、初の全国選抜大会へと出場。
 だが、畑井監督は自嘲気味に語った。
「久方ぶりに九州大会に出られて、選抜にまで出させてもらったけど、そこで主力が3人もケガしちゃって……。おまけに『全国大会に出る部活なんてトンでもない! 勉強ができなくなっちゃう』って、敬遠されちゃった」
 新入した1年生部員は8人のみ。上級生を合わせても29人という選手層の薄さが、いつも悩みのタネだ。
「ケガ人が多くて、春の大会で修猷館に負けてベスト8止まり。計算したら、ヒガシと逆のブロックに入る可能性は25%。もう、ヒガシに勝つつもりで行くしかない」
 選抜大会で膝を負傷した主将のHO原口らは、8月上旬、福高に勝利した練習試合で復帰したばかり。
 中野も「チームとしては選抜の時よりも落ちているので、夏合宿をしながら、組織として動けるようにしないといけないと思います」と話す。

 花園とは福岡のラガーマンにとって、どんな場所なのだろうか?
「一度は行ってみたい未知なる世界」と赴任10年目の畑井監督は言い、今年から指揮を執る真鍋監督は「出場できたなら、それこそ人生が変わるとも聞きますし、生徒たちにとって後々大きな財産になると思いますから」と語る。
 修猷館の原田、東筑の中野の両選手は、実は中学時代に福岡県のスクール選抜として、花園のグラウンドに立った経験を持っている。決勝まで勝ち進み、大阪スクール選抜に敗れた。
 中野は「もう一度、あの場所に立ちたい」。原田は「最高の舞台だったから、今度は修猷館のみんなと一緒に、あの雰囲気を味わいたい」と話す。両者ともにヒガシからの誘いは当然あったが、将来の進路も考慮して現在の道を選択した。中野は早稲田、原田は同志社への進学を志望している。
 運命の予選抽選日は9月15日。果たして11月15日に行われる注目の福岡ファイナルに進むのは、どこになるのか? ただし、決勝でも昨年の修猷館のようなスコアでヒガシに敗れたならば、毎年決勝が激戦となる長崎県や、29年連続出場を続ける大分舞鶴が君臨する大分県の高校にも、大会規定に照らし合わせるならば機会はある。
 長い雌伏の時を破るチャンスが巡ってきた筑紫は、今夏も菅平で牙を研いだ。熊本・阿蘇高原で研鑽を積んだ福高も黙ってはいないだろう。たぶん、いつかどこかで「王者」ヒガシと相まみえるその日まで、山を降りても福岡の高校ラガーメンの夢と情熱は加速し続ける。

(文・磯畑裕光)

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