大阪桐蔭は充実した秋を迎える。
4月の第16回全国高校選抜大会2位チームは、長野・菅平の夏合宿を7勝1敗で終えた。
8月8日から16日まで9日間で8戦。トライ数2-3で唯一惜敗した佐賀工戦は、東福岡に3-1で勝った午後にあった。1日2試合。選手の消耗は激しい。
40歳のOB監督・綾部正史は満足しない。
「もっと相手の強みを出させないで、自分たちの強みを出していかないといけません」
求める「強み」は15人、リザーブ含め25人のまとまり、結合だ。
FWはモールを磨く。
ボールキャリアー、ウエッジ2人、テールと4人一組で、両サイドの人間がボールを奪い、密着回転させながらの前進を20分近く続ける。相手をつけず体で入念に覚えこませる。15メートル四方での5対5は30分以上。真剣な押し合いの中で息は上がる。ブレイク後はうつむいて「ハアハア」。ローリングは禁止。直線のみのプッシュに疲労は倍加する。
「今はね、しんどいことをせんとダメなんです。横に逃げるたら楽やけど意味はない」
大阪体育大学の現役時代、BKだった綾部はFWにつきっきりだ。
BKはキックを交えたアタックや蹴り込まれた時の対処を7人のラインで確認する。分かれている練習内容は夏合宿で不完全だった部分も踏まえ、行われてる。
今年は例年にも増して選手の能力は高い。
6月の2015年度U18TIDユースキャンプ(高校日本代表候補合宿)第1次メンバーに同校最多の5人が選ばれた。
PR岩井響、SH杉山優平、SO藤高将、CTB福島祐司、WTB新居(にい)良介である。
パス、キックに優れたHB団を持ち、ミッドとアウトフィールドも決定力がある。
2年生PRの清水岳は第23回日・韓・中ジュニア交流競技会のU17日本代表だ。
それでも綾部に自画自賛はない。
「別になんとも思っていません。彼らが合宿に呼んでもらって、いい経験をしてくれればいいとは思っていますが」
監督10年目。個では勝てないことを実感している。
肉体的限界の引き上げにも抜かりはない。6月の1か月は大阪平野にある学校から、標高642メートルの生駒山北側にあるグラウンドまで走って上がった。約30分。白い雲をつかめそうな山の頂では太陽が照りつける。出しきった状態からウエイトトレで追い込む。主将の杉山は話した。
「一人一人の体作りはできていると思います。チームとしての力がつけばもっと上に行けるはずです」
大阪桐蔭は、近畿、選抜、大阪総体、7人制と高校4冠の東海大仰星と常翔学園とともに大阪府内でビッグ3を形成する。
選抜決勝は仰星に0-21。5月の総体では4強戦で常翔学園に19-19で引き分ける。常翔は決勝で仰星に10-27で敗北した。しかし前半は3-3。突き放しの2トライ目がスコアされたのは後半20分だった。府予選のAシード3校に差はない。
1983年、大阪桐蔭は誕生する。同年、ラグビー部が作られた。仰星の1年前である。創部33年目で冬の全国には3年連続9回出場している。最高位は3年生が1年生だった2年前。第93回大会ベスト4。桐蔭学園に0-43で敗れた。輩出した日本代表は4人。トヨタ自動車元PRの高柳健一(キャップ1)、釜石シーウェイブスのLO北川勇次(同6)、パナソニックのFL西原忠佑(同3)、CTB林泰基(同3)がいる。現在の部員数は74(3年生=22、2年生=27、1年生=25)だ。
4年連続して12月の花園の緑芝を踏めれば、部としては初快挙。出場回数10、二桁の大台に乗せれば、府内では常翔(33)、常翔啓光(19)、府立天王寺(同)、仰星(15)、府立淀川工科(13)に次ぎ単独6位になる。
順当に行けば府予選決勝はBシードの大阪朝高と対戦する。大阪桐蔭と同じ出場回数を持ち、現在では府内でもっとも長い6年連続して聖地を戦う。綾部は7歳年上の前監督・呉英吉(お・よんぎる)と数えきれないほど飲み食いをした。手の内を知り尽くす。
「朝高は嫌な相手。Bシード3校で一番強い。ウチとしては15人ラグビーで展開して、そして守り切りたい」
強いフィジカルを生かしたモール、サッカー上がりの選手によるピンポイントでのキックは織り込み済み。この8月下旬の練習はその対策にも相当する。
ラグビー部は今年、背負うものがある。
4月、前校長による5億円超の裏金作りが発覚。生徒に罪はないが、看板クラブの硬式野球部は動揺した。今夏、史上初の府大会4連覇、甲子園を逃す。
同じ?類(運動、文化系クラス)の野球部員は、府予選決勝には花園のバックスタンドから声援を送るのが恒例だ。日本ハム外野手の中田翔、阪神投手の藤浪晋太郎も例にもれなかった。
母校に明るいニュースを送り、他競技ながら一緒に汗を流してきた仲間の応援に応える。9月開幕の全国予選は負けられない。