ラグビーリパブリック

【ブルーブルズ来日特集 6】 ブルズは内弁慶なんかじゃない

2015.07.31

SundayTimes

2002年3月31日の南アフリカ『Sunday Times』紙

 

 かつて、南アフリカにキャッツというチームが存在した。ハウテン・ライオンズ(旧:トランスバール)やフリーステート・チーターズなどのスター選手を集めて編成したドリームチーム。
 スーパーラグビー発足当初、南ア勢は前年の国内大会で上位だった州代表チームがそのままスーパーラグビーに参戦していたのだけれど、1998年からニュージーランドのようにフランチャイズベースでチームを作ることにし、国内ビッグ5の一角を占めていたライオンズとチーターズが一緒になり、“スーパークラブ”が誕生した。
 ライオンズからはダルトン、スワルト、ストライダム、ヘンリー・ルルー、ムルダー、AJ・フェンター。チーターズからはオス・デュラント、ドロツキ、アンドレ・フェンター、エラスムス、ヤニー・デビアーなど、それはそれは豪華だった。
 当然、キャッツを優勝候補筆頭に挙げる声も多かった。しかし、1年目は2勝しかできず最下位に終わってしまう。1995年ワールドカップで南ア代表の優勝に貢献した英雄WTB2人、ジェームズ・スモールとチェスター・ウィリアムズが加わった2年目も、12チーム中11位と散々な結果だった。最大の敗因は、チームが結束しなかったからだと言われた。仲が悪かったのだ。国内で強烈なライバル関係にある者と、なんで肩を組まなくちゃならない。

 そんなバチバチの関係だからこそ、南アの国内最高峰大会「カリーカップ」はファンを熱狂させた。現在はインターナショナルマッチが充実して、南ア代表選手は国内大会にあまり参戦しなく(できなく)なったが、かつては、1892年からおこなわれ100年の歴史を持つカリーカップこそが最高の栄誉と考える南ア人は少なくなかった。スーパーラグビーよりも、カリーカップが大事だと。

 トランスバールから分かれて誕生したノーザン・トランスバール(現:ブルー・ブルズ)もカリーカップに燃え、優勝回数はウェスタン・プロヴィンスに次いで2番目に多い23回。プレトリアを中心としたハウテン州北部の人々を熱狂させていた。

 しかし、やがて南アの人々も、プロ化になって魅せることを意識したエキサイティングなスーパーラグビーの凄さを知るようになる。
 1996年から始まった同大会。オークランド・ブルーズが2年連続で優勝したあと、カンタベリー・クルセイダーズが3連覇、そして、現日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ率いるブランビーズが2001年大会で初優勝を遂げる。栄冠を手にするのはいつも、ニュージーランドかオーストラリアのチームだった。

 南アにはイライラが高まっていた。自分たちのラグビーこそ最高だと信じる人々には屈辱だった。
 そして2002年3月31日、同国最大の日曜紙『Sunday Times』にショッキングなニュースが掲載された。
「南アラグビー界に衝撃! ブルズは海外試合を放棄」

 当時、ブルズはスーパーラグビー開幕から5連敗中で、最終的に11戦全敗で2年連続の最下位となるのだが、海外遠征を大の苦手としていた。国内では威勢がいいのに外では意気地がない。だから、ニュージーランドとオーストラリアでは試合をしないから、不戦敗扱いでいい。そのかわり、ブルズにはボーナスポイントを1点与えてくれ、と。そうしたら、その年にブルズが放棄した海外での4試合分で、勝点4が入るじゃないか…。負けることがわかっている試合をしなければ、ブルズは多額の遠征費を抑えることができる。対戦チームも、ブルズ戦がキャンセルとなれば選手たちを休ませることができてハッピーだ。
 この決定を知ったブルズのレジェンドOB、カリーカップ通算最多得点者であるナース・ボエタ(ボタ)のコメントも同新聞に掲載された。「悲しい日だ。しかし、我々(ブルズ)は現実を見なければならない。我々はただ力不足ということだ…」

 実はこれ、翌日が4月1日のため、『Sunday Times』が出したエイプリルフールジョーク。でもそれくらい、ブルズは内弁慶だったのだ。
 時は流れ、2007年に南アフリカのチームが初めてスーパーラグビーで優勝した。栄冠を手にしたのはブルズだった。もう、海外遠征も苦とせず、2009年と2010年にも南半球の頂点に立ち、歴代チャンピオンチームのリストには3つの南ア国旗とブルズの名が刻まれている。

 そんな歴史を持つブルズ(ブルー・ブルズ)が来日し、今夜、東京・町田市立陸上競技場でジャパンラグビートップリーグチームのキヤノンイーグルスと対戦する。ブルー・ブルズは一週間後に開幕するカリーカップで6年ぶりの優勝を狙っており、その勢いを来年のスーパーラグビーにつなげたいと思っている。激しいフィジカルプレーとスピーディーなアタックを特長とする。ベテランも若手も、しぶくて華やかで、魅力的な選手が多い。

 ぜひ会場でご観戦ください。キヤノンイーグルス対ブルー・ブルズ戦は19時5分にキックオフ予定。

【チケット情報】
http://www.machida-wmr.jp/

 

マットフィールド、ステイン、デュプレア……。多くの世界的スターを輩出してきたブルー・ブルズ
(Photo: Getty Images)

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