昨季のサントリーは日本最高峰のトップリーグ(TL)で5位も、シーズン終盤にチームが結束して日本選手権準優勝。「アグレッシブ・アタッキング」というクラブの原点に立ち返り、固定メンバーで上昇機運を作った結果だ。
どんどん勝ち上がるチームを複雑な思いで見つめていたのは、WTB中?(なかづる)隆彰。早大出身のトライゲッターだ。身長177センチ、体重83キロと決して大柄ではないが、スペースを射抜くスピードと軽快なステップを持ち味とする。
2年目の昨季は、それまで出番のなかったリーグ戦で14試合中13試合に先発して10トライを奪った。TL中位陣によるワイルドカードにも2試合で1トライをマーク。大きく飛躍した。チーム内で持ち味を活かす要諦を、確かに掴みつつあった。
しかし、最後の日本選手権では、出番なしに終わる。手中に収めつつあった背番号「14」は、一昨季までレギュラーだったWTB長友泰憲に奪われた。トーナメントを勝ち上がる仲間を、観客席から見守るほかなかった。
いざ、3年目のシーズンへ。前年度にメンバー落ちした理由を「ディフェンスとブレイクダウン(肉弾戦)の安定感」と捉えたWTB中?は、ルーキーイヤーから注力するフィジカル強化を継続。「あまり大きくし過ぎて動けなくなってもいけない。身体と相談しながら…」。得意なプレーのアピールと同時に、課題の克服にも余念がない。8年目のPR金井健雄は「去年、途中で替えられて悔しかったはず」と、聡明な後輩を見つめていた。
7月18日。千葉・ゼットエーオリプリスタジアム。TLで昨季13位だったクボタを19-14で制した練習試合に、WTB中?は「14」をつけて登場した。2トライを決めた。
前半28分の1本目は、味方が大きな突破を決めた直後の接点の脇で、SH芦田一顕からパス受け取って約40メートルを快走したもの。後半22分の2本目は、敵陣22メートル線付近で攻めの起点となったCTB宮本啓希からパスをもらい、そのまま駆け抜けたものだった。
チームの攻撃陣形を理解し、タッチライン際に止まらずにどんどん球の出どころへ駆け込んだ。その過程を、WTB中?は満足げに振り返っていた。
「サントリーのWTBとしては、(どちらも)狙いどころなので」
昨季終盤に味わった辛苦を、今季のさらなるジャンプアップにつなげたい。
「勝つのはもちろん嬉しいですけど、自分が外れてチームがよくなっていくことには悔しいものがあって…それを、今年のエネルギーにしたいです。目標はもちろん優勝。そして、その原動力、一員になりたいです。スタンドにいるのではなく…」