ラグビーリパブリック

【PNC現地リポ】 大野と廣瀬、ベテラン2人の“ラストチャンス”

2015.07.21

PNC

前半10分に途中出場して、そのまま70分間プレーしたSO廣瀬。
指令塔として存在感のあるパフォーマンスを見せた(撮影:出村謙知)

 20-6というスコア以上に、2大会連続してワールドカップ(W杯)で引き分けているカナダ相手に日本のベースが上がったことを印象づけたパシフィック・ネーションズカップ(PNC)開幕戦。久しぶりに日本代表として長い時間プレーすることになった2人のベテランが、それぞれ持ち味を出すパフォーマンスで勝利に貢献した。

 股関節の痛みのため、この春のアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)では出場機会のなかったLO大野均にとっては、自らが「日本のライバル」と捉えるカナダとの対戦が、今季ジャパンの一員として初めてプレーする試合となった。
 過去2度のW杯でのカナダとの引き分けも直接経験するなど、日本代表最多キャップ数を誇る大野だが、今回のPNCに関しては2か月後のイングランドW杯への生き残りをかけた「ラストチャンス」と捉えている。
「自分はアジアの試合に出られなかったが、その間にトモ(トンプソン)も鐘史(伊藤)も宇佐美もいいパフォーマンスをしていた。自分にとってはW杯に生き残るためのラストチャンス。毎試合、毎セッション自分の持っているものを100%出し切ることに集中していきたい」
 北米で4試合続くPNCの初戦となったサンノゼでの一戦では、先発出場し60分間プレー。
「久しぶりだった上に気温も高くて、バテた部分はあった」と自嘲したものの、その表情は圧倒的に女性ファンからの支持を受ける「すべてを出し切った」後の“均ちゃんスマイル”だった。
「密集での働きとセットプレーの安定。自分が入って崩れたというふうにはしたくない」と、自分の役割を語っていたベテランLOだが、「最初はカナダもガンガンきていたので、ロックとしてしっかり体を張った。自分の持ち味は出せた」と、ラストチャンスの第1関門はクリアした手応えは十分に感じているようだった。

 ある意味、このカナダ戦に照準を合わせられていた大野に比べ、いつチャンスが巡ってくるかわからない状況でのチャンスに備え続けているのがSO/WTB廣瀬俊朗だ。
 この春のARC4試合すべてでリザーブ入りしたが、1試合平均した出場時間は14分。
 現実問題として、ARCでは廣瀬が出場機会を得られた終盤の時点では、試合のすう勢は決まっている状況であることも多く、アピールという意味では難しい面があったのも否めないだろう。
 そんなARCでの経験、そして「メンタル的にしんどい1か月だった」という6月の厳しかった宮崎合宿を経て迎えたPNC初戦。
 意外なかたちで、チャンスは目の前にやってきた。
 顔面を強打したSO立川理道が前半10分で退場。そのまま、廣瀬がSOのポジションに入り、チームの舵取りを任されることになったのだ。
 最終的には、先発した大野よりも長い計70分間、ピッチに立ち続けた。
「ゲームコントロールとスキルのところを気をつけて入った」
 元々、エディージャパンのスタート時の主将だった廣瀬だが、前述のとおり、ここ2シーズンは出場機会に恵まれているとは言えない状況。所属する東芝でも「SOとしてはイレギュラーにしかプレーしていない」(ジョーンズHC)というのが実情だ。
 恐らく、PNCでいきなり70分間、指令塔としてプレーすることは本人にとってもビッグチャレンジだったはずだが、見事に乗り切ってみせたと言っていいだろう。
 試合後、廣瀬は「優(CTB田村)がうまくフォローしてくれた」と語ったが、その田村がイエローカードによりピッチを去っていた10分間もあったが、10番、12番がいない状況にもチームが慌てふためくシーンは見られなかった。その少なくない要因が「うまくゲームコントロールできた」という廣瀬の存在にあったのは事実だろう。
「廣瀬はいいプレーをしてくれた。彼がきちんとした努力を続けてきたからできたものだ」
 ジョーンズHCも「ちょっとキャプテンだと勘違いしているところがあって、レフリーに話をしに行き過ぎる」とのジョークを飛ばしながらも、チームの窮地を救った前主将のピッチ上の指揮能力を賞賛。
「ハルがケガしたのは残念だったけど、久々に長い時間プレーできて、自分にとっては良かった」
 明らかに攻守において力強さを増したプレーぶりも含めて、あるいは大野以上に自らの「ラストチャンス」を意識しているかもしれない廣瀬にとって、突如サンノゼでやってきたチャンスをものにしたことは、W杯への生き残りに向けて大きな自信につながったことは間違いないだろう。

(文:出村謙知)

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