6月14日の明治大戦で3トライを挙げた重一生(撮影:井田新輔)
身長170センチ、体重82キロ。上背はない。それでも持ち前の体幹の強さを、密集戦、さらにはボールを持つ場面で活かす。大阪・常翔学園高のエースとして全国高校ラグビー大会を制した頃は、野上友一監督にこんな言い回しで褒められたことがある。
「ラグビーというより、ボールの取り合いっこで強い。そういう感じ」
FB重一生。いまは大学選手権6連覇中である帝京大の3年生だ。鳴り物入りで大学ラグビー界に参入して昨季からレギュラーを獲得も、おそらく、チーム内での評価は定まっていまい。きっと本人もわかっている。
6月14日、静岡・草薙総合運動場である。チームにとっての関東大学春季大会の最終戦に、先発出場した。
40-14で迎えた後半30分頃。大きな突破を決めた相手ランナーの進路を先回りし、タックルを決める。「自分の手で、相手のボールを殺す」。そのままボールに絡みつく。「掴んだら、絶対に離さない」。この日は3トライを決め、チーム選定のMVPとなった。
「怪我でコーチ陣、またスタッフ陣の信頼を失ったなかでの試合だったので、きょうの試合では、皆さんから信頼を築けるようなプレーをしたいと思い、臨みました。(トライは)FWが前に出てくれたおかげ。そこで最後に、自分の持ち味である身体の強さを活かしました」
春先は肩を怪我して、戦列を離れていた。その背景を鑑みてか、行儀のよい談話を残した。
帝京大の選手は、常に周囲から「謙虚」と謳われる。そう思われるような振る舞いをする。高校時代も周りへの感謝は口にしていたFB重も、いまの環境ではより殊勝に語るようになった。
「流れを読む力はまだまだ。相手の状況を分析して、試合中にそれを活かす。これから(日本選手権で)トップリーグのチームと対戦することを目指すなかで、ここは見劣りしている部分だと思うので」
――帝京大の選手らしくなりました。
少し笑って、本人は言う。
「高校時代の幼かった自分を、監督、先輩方にご指導いただいて、いまがあるのかなと思います」
春シーズンの最後に存在感を示したが、安心はできまい。試合後、岩出雅之監督は「重独特のプレーは、いい。ただ、もっと運動量を増やさないと」と感想を述べたものだ。この先、CTBやFBをこなす森谷圭介副将ら故障者が復帰。BK陣では定位置争いは激化する。そんななか、男子の香りを残す勝負の鬼が「人間としても成長していけるように」と前を向く。