(撮影/松本かおり)
ラグビー熱狂地帯だ。秋田には、目の肥えた人たちが大勢いた。そんな人たちが、夕暮れ前のピッチを眺めているうちに力が入った。息の詰まるファイナルだった。
6月28日、太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2015の秋田大会第2日が『あきぎんスタジアム』でおこなわれ、カップトーナメント(1-8位)決勝でARUKAS QUEEN KUMAGAYA(以下アルカス)が優勝して2大会ぶりに頂点に立った。東京フェニックスRCとの決戦を24-20と制して笑った。竹内亜弥主将が、「ほとんど(両者に)差はなかった。私たちが勝ちたい気持ちで上回った」と話す激戦だった。
頂上対決での勝者と敗者の間には、紙一重の差しかなかった。女子セブンズ日本代表、同候補を多く擁するアルカスと、NZ選手をパワーハウスに、急激に力を伸ばすフェニックス。それぞれのスタイルと思いがぶつかり合い、残り4分までフェニックスがリードする展開だった。
試合終盤に集中力を発揮し、逆転勝ちしたアルカスの中で勝利を呼び込むプレーを見せたのが大田黒裕芽だ。逆転トライ(後半6分過ぎ)と、勝利を決定づけるトライを奪い(後半9分)、大会MVPにも選ばれた。
試合の立ち上がり、マテイトンガ・ボギドゥラウマイナダヴェのトライで先制したアルカス。フェニックスもその2分後、メレ・フファンガが強烈なハンドオフで防御をぶち抜いてトライを返し、互いに集中力高く戦う内容は最後まで続いた。
そんな中で冷静に、それでいて積極的に仕掛け続けたのが大田黒だった。昨年7月、左膝の前十字靱帯を断裂。長いリハビリ期間を経て、この大会が復帰戦だった。「加速したいところで思うようにいかなかった」と、自身の描くイメージには遠い出来と言った。しかし、積極的な動きがフェニックス防御を後退させ、味方を前に出した。大黒田の怪我の間にセブンズ日本代表のSOとして大きく進化した小出深冬とのコンビネーションもよく、ふたりでボールを前に運ぶシーンが何度もあった。
その小出のランからマテイトンガ、田坂藍とつないでトライを決めたのが前半5分。しかしフェニックスもその2分後にパスを多くつないで攻略し、鈴木実沙紀がインゴール左スミに飛び込んだ。前半は12-10とアルカスのリードで終わった。しかし後半1分、スコアはひっくり返る。フェニックスはピッチ中央寄りのスクラムから出たボールをライン際のメレ・フファンガに回す。逞しい体ながら、スピードも豊かな弾丸は60m近くを走り切り、15-12とリードを奪ってみせた。
残り時間、両チームは力を出し切った。アネ・リーチも投入し、突破口の発生率を高めたいアルカス。フェニックスはNZ選手の開ける穴に周囲がよく反応した。
そんな中、後半6分に生まれたアルカス、大黒田の逆転トライは、何度でもボールを動かし、継続した先に得たものだった。谷口令子が落ち着いて左サイドを駆け上がり、最後は末結希が自身の体をタックラーに預けながら大黒田を呼び込んだ。そして9分は、司令塔の広い視野が光った。ラインアウト後に出たボールを受けた大黒田は、猛然と前へ出てきた防御の裏にパントを転がす。インゴールに転がるボールを自ら押さえて試合を決めた。
「復帰戦で、先週は負けたチームが優勝できた。最高の気分です」
そう笑ったMVPは「へとへとです」と言いながらも、残した結果に満足そうだった。
その一方で、敗れたフェニックスの四宮洋平監督も決して落ち込んでいなかった。前週の東京大会、秩父宮ラグビー場で初めて頂点に立ち、この日は準優勝とはいえ、その試合内容は立派だった。
「決勝には行きたいね、と言っていたんだす。そこで勝ち、負けが出るのは時の運で仕方ないけど、得られるものは大きいから、と。先週ああいう舞台で勝てたことと、今週の結果。チームにもたらしたものは本当に大きいと思います」
頂点に立った者も、そのすぐうしろに迫った者、そして観戦に訪れた人たち全員が、雨上がりの夕暮れをいい気分で帰ることができる大会だった。
■太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2015 秋田大会 最終順位
カップ優勝: ARUKAS QUEEN KUMAGAYA
カップ準優勝: 東京フェニックスRC
3位: 追手門学院大学女子ラグビー部
4位: Rugirl-7
プレート優勝(5位): チャレンジチーム
プレート準優勝(6位): 石見智翠館高校
7位: 名古屋レディース
8位: RKUラグビー龍ケ崎GRACE
ボウル優勝(9位): YOKOHAMA TKM
ボウル準優勝(10位): 日本体育大学ラグビー部女子
11位: カ・ラ・ダファクトリーA.P.パイレーツ
12位: 世田谷区ラグビースクールレディース
(撮影/松本かおり)
■大会2日目結果
<太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ 2015 シリーズポイント>