6月27日、28日、三重県熊野市の山崎運動公園で第6回高校熊野市長杯争奪戦(兼第20回熊野市ラグビーフェスティバル)があり、東海大仰星(大阪)が31-5で御所実(奈良)を下し3年連続で優勝した。
大会は2校のほかに大阪朝高(大阪)、伏見工(京都)、朝明、木本(ともに三重)の計6校が参加した。
初日、2グループに分かれた総当たり戦で仰星と御所実は2戦2勝。1位をかけて2日目の順位決定戦に臨んでいた。
2日間、主催の熊野市ラグビー協会の役員として、運営の中心になったのは地元の同級生ラグビーマン、湊健と井本伊織である。
熊野市にある木本高校でともに楕円球を追った。3年時の第60回全国大会県予選(1980年度)では、同校を1948年の創部以来33年目にして初の花園に導いた(2回戦で天理に6-32で敗北)。15歳から「けんちゃん」、「いおり」と呼び合う2人は今年53歳。友情は40年近く続いている。
湊は現在、熊野市農業振興課に勤務。大会ではチームとの事前折衝や運営をする。
高校では主将でCTB。東海大でFLに変わる。卒業後にUターン就職で熊野に戻った。学生時代、前仰星監督の土井崇司(現東海大テクニカルディレクター)とは2学年、日本代表やコカ・コーラで監督をつとめた向井昭吾とは1学年下だった。
和歌山、三重の2県にまたがる紀南(きなん)と呼ばれるこの地区は、古くから野球どころ。元阪神タイガース投手の藪惠壹などを輩出した。その中で湊は公務員として地域の安定、発展をラグビーに求めている。
井本は地元で最大の総合建設業・井本組の社長である。
大会中は関係者席の真ん中で、どっしりと腰を据えて全試合を見る。夜の懇親会では、大会に参加した若い指導者たちに、往年の名選手、経営者としての経験や考えを伝える。
PRだった井本は1980年度の高校日本代表メンバー。平尾誠二(現神戸製鋼GM)、土田雅人(元サントリー監督、現サントリーフーズ社長)らとオーストラリアに遠征した(8戦7勝1敗)。中京大を経てトヨタ自動車に入社。スクラムの強さには定評があった。
二人が地元の住人として再開するのは20年前の1996年。井本が父親・杉晴の急逝に伴い、トヨタを退社して熊野に帰り、家業を継いでからである。
同時期に今回の会場となった多目的グラウンドが完成した。当時、市建築課にいた湊はフェスティバルを企画。第1回はトヨタと京都産業大を招待する。この試合は井本の引退ゲームにもなった。
以来、フェスティバルとしては20回を数える。
大学、社会人を招待した従来の形式が変わったのは6年前だった。グラウンドが沼地を造成してできていたため、地盤に凹凸が現れ、改修工事を余儀なくされた。その時期にフェスティバルのあり方を協議。木本高校強化も含め、高校チームを呼ぶ案が浮かぶ。
湊は成否について大学の先輩・土井に相談する。
答えは一言。「できるやろ」。そして土井は名門高校チームの1つに数えられる仰星を率いて熊野に現れた。
隣接する野球場「くまのスタジアム」も含め、グラウンドは阪神甲子園球場を管理する阪神園芸のノウハウが導入されている。腰が強い緑の天然芝は、人工芝とは違う柔らかさや涼しさがある。
宿泊は車で10分ほどの「熊野少年自然の家」を使う。1泊2食2000円の格安価格は魅力の一つでもある。
施設の充実もあり、年々参加を希望する高校は増えている。今回は隣県愛知の7人制全国大会予選の日程と重なったため、従来の8校ではなく6校開催となった。
湊は眼鏡の奥の目を細める。
「こんな田舎でこんなことができるのは信じられません。最初にトヨタに来てもらえたのが大きかった。そのあとサントリーなんかも来てもらえましたからね」
井本も丸い目をくりくりさせる。
「みんなここまでよく来てくれたなあ、という実感はありますね」
湊は大会の将来への見通しを語る。
「できればもう1面グラウンドを作って、参加チームを増やしていきたいなあと思っています。今はこれまで声をかけたチームが優先で顔ぶれをほとんど変えられない。でもマンネリ化はよくないですからね」
井本は大会が続いている理由をラグビーのよさになぞる。
「このスポーツをしているやつはほとんどがいい人。たまに悪い人間もおるけどね。自己犠牲のスポーツやからね」
自分がタックルされ、痛い思いをしても、ボールをつなぐ。それがうまく渡りトライになれば傷ができてもうれしい。
そこに満足感がある。
母校のため、地域のため、仲間のため。2人にもラグビー精神が息づいている。
<第6回熊野市長杯争奪戦 結果>
◆27日 予選プール(20分ハーフ)
【グループA】
・東海大仰星 50-0 木本
・東海大仰星 45-12 伏見工
・伏見工 43-7 木本
【グループB】
・御所実 40-0 朝明
・御所実 10-7 大阪朝高
・大阪朝高 29-12 朝明
◆28日 順位決定戦(30分ハーフ)
【1位決定戦】
・東海大仰星 31-5 御所実
【3位決定戦】
・大阪朝高 26-5 伏見工
【5位決定戦】
・朝明 45-0 木本
■写真:
熊野市長杯の運営の中心となる木本高校同級生コンビ。
「いおり」こと井本伊織さん(左)、「けんちゃん」こと湊健さん。