関東大学春季大会(関東大学対抗戦と同リーグ戦の交流リーグ)の試合会場で、ひときわ大きくなった身体で人々の注目を誘った選手がいる。早大のLO桑野詠真である。
福岡・筑紫高出身。ルーキーイヤーからレギュラー争いに参加する身長191センチの3年生は、昨季のオフから増量を試みた。ウェイトトレーニングの回数を増やし、専門家の知恵を借りて食生活を見直した。前年度より5キロも重い「体重108キロ」となった。
「本当に大きくなろうとしていた時期は、捕食を増やしました。常に、何かを食べるイメージです」
昨季までのLO桑野の姿を知るトップリーグ(国内最高峰リーグ)の関係者からは、「大きくなった。(採用関係者からの)人気は出るだろう」と感嘆の声があがった。もっとも春の本格始動後は、増量を制限していると本人は言う。チームには、昨年まで日本代表を指導していた村上貴弘S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチが着任した。より試合で力を発揮するために、LO桑野は新たな方法論を吸収している。
「体重が増えた分、体脂肪も増えた。それを試合で使える身体にしている感じです。村上さんはイチから、グラウンドでのプレーにつながるように話してくれる。ブレイクダウン(ボール争奪局面)は低く、強くいかなくてはいけない。スクラムでは胸椎を上げる。だから(各種ウェイトトレーニングについて)このフォームだ、と」
チームは昨季、関東大学対抗戦Aで2位だった。歴代最多の優勝を誇る大学選手権でも、2008年度以来優勝から遠ざかっている。LO桑野は入学以来、現在同6連覇中の帝京大の背中を追い続けている。
6月7日、東京・早大グラウンド。春季大会グループA(各団体の上位3校同士による)の4戦目でその王者と激突する。背番号「5」は、しばし接点でしつこく抗った。「フィジカル的には、去年よりはだいぶ、差は縮まったけど…」。12-73。完敗した。彼我の差を認めるしかなかった。
「帝京大の前に出て行こうという強さ、上手さ、何とか1歩、出てやろうというものを感じました」
もっともシーズンが本格化する秋以降は、この常勝集団から白星をもぎ取りたい。普段の鍛錬で、異質性を磨くほかない。21日には岩手・盛岡南公園球技場で、明大(対抗戦A・昨季3位)との春季大会ラストゲームに挑んだ(●14-66)。今後の指針を、LO桑野はこう語った。
「まずは1対1で負けない。もっと、立ち向かう姿勢を持たないと。倒しきる、1秒でも速く起きる、とか。岡田(一平主将・SH/CTB)さんも言っていました。『普通にやっていたら、どこの大学にも勝てない』と。ワセダの狂気。それを練習のなかから作っていく。個人としても、そういう意識のところが大事だと感じます」