浪速のおっさんもビビるでー。
「元気してんのかーあ!」
いきなりかまされた。
関西ラグビー界の「ゴッド・姉ちゃん」こと上門真弓さん(旧姓吉田)や。
この国最初の本格的女子ラグビー選手。レフェリーのB級も持ってはった。今はラグビー用品販売で兵庫県では知らんラグビー関係者はおらんウエカドスポーツの嫁さんや。愛称は「ねえさん」。せやけど約半世紀前の大阪ラグビースクール(RS)時代を知る者は尊敬を込めて「まゆみさん」と呼ぶ。
そのまゆみさんが6月21日、「ラグビーフェスティバル」も兼ねた「尼崎市内高校現役、OB、OG交流会」を例年通り仕切らはった。
兵庫県の東の端、大阪と境を接する尼崎は「アマ」と呼ばれる下町や。この地域では高校ラグビーが結構盛ん。せやけど就職する人間が多く、卒業後に戻る場所がない。市内の武庫之荘にお店のあるまゆみさんは、その話を聞いて不憫に思った。市内8つのラグビー部のある学校に声をかけ、年一回のOB戦を始めたんや。8校は県立尼崎、市立尼崎、尼崎工、尼崎北、尼崎西、尼崎東、尼崎産業(東と産業の2校は合併して現在は尼崎双星)、武庫工業(現在は武庫荘総合)やね。
今年27回目。15年前から尼崎市体育協会がバックアップしてくれて、OB戦だけではなくRSや社会人の試合も組まれ、市の一大ラグビーイベントになってきたんやね。
朝9時から市内のベイコム陸上競技場の青々とした天然芝は大にぎわい。地元の尼崎RSの紅白戦で一日がスタート。現役高校生によるゴールキック合戦やタッチフット。OBを中心にした7人制ゲームがあり、尼崎に本拠を置く、大阪チタニウム・テクノロジーズ対三菱メルコ・ダイヤモンズの県春季公式戦で夕方に終了やね。
まる一日かけてアマに関係する、した人たちがラグビーを楽しんだ。市尼崎OBでNTTドコモのSH井之上明さんも朝から登場や。前日、近鉄とのオープン戦やったのにオフ返上。母校や地元愛があるな。
参加者はRSの保護者なども含め約1000人。チーム参加費や寄付でお茶やスポーツドリンクなどの飲みもん、おにぎり、やきそば、フランクフルトなどの食べもんがみんなに無料で振る舞われた。
一日中忙しそうに動いてはるまゆみさんは笑顔で感謝を表した。
「協会やスクールの保護者らが手伝ってくれてすごくいい会になってきた。個人じゃとっても無理やったわ」
まゆみさんは1968年(昭43)に創設された大阪RSの一期生。開校時は小6やった。ポジションはSO。中3までプレーをして、大阪の女子高・樟蔭に進んでからは女子部のコーチになった。そりゃ怖かったわ。ゴルゴなんとかさんのような世界的スナイパーそっくりの針のように細い目。確か茶髪でくりくりパーマやったような…。どすの利いた声で「おい、しずめ!」って呼ばれたら、当時小学生のおっさんはちびりそうになったもんや。「直立不動」って言葉はまゆみさんに教えてもらったわ。
まゆみさん率いる女子部は強かった。西谷の姉ちゃん、竹谷の姉ちゃん、菅君の妹…。みんなべっぴんさんやけど、ガンガン当たってトライ取りよる。試合してよう負けた。「凛とした」とか「凛々しい」という意味が子ども心に分かったな。おっさんが今でも女の子に弱く、結婚できんのはそのトラウマや。
まゆみさんは小学校の教員免許取得を目指して京都の佛教大に進学。そこでもラグビー愛好会を立ち上げはる。会は卒業する年に体育会に昇格するんやね。来年は創部40年で現在、関西大学Cリーグに所属。まゆみさんは今でもコーチとして手を貸している。
大学を卒業してすぐにウエカドスポーツの社長・俊男さんと結婚した。
「土下座されて、一緒になれんかったら自殺する、言われたらしゃーないやんか」
実際はちゃうでー。大学から予算がつかん、つまりお金が出えへん愛好会を支えとったんは俊男さんや。当時から関係の深かった神戸製鋼や報徳学園のお古のボールやあまりもんのジャージーを無償で渡してあげてた。
「まあ、よくカツカレーも食べさしてもうたりしたからな」
結婚前からしっかり支えられとったんや。
報徳学園時代から30年の常連になる市尼崎・吉識(よしき)伸監督は言う。
「ねえさんは親分肌で面倒見がええ。高校時代に腹が減ってたら、隣のお好み焼き屋に連れて行ってくれて、満腹になるまで食べさしてもらいました。『好きなもん、好きなだけ食え』ってね。3枚は食べたかなあ」
出たー。また食いもんの話。やっぱり摂南飯は正しいよね。おっと話題がそれてしもた。
監督は続けます。
「ねえさんからはラグビーに対する深い愛情を感じる。こういう高校とOBをつなぐ試みなんて、ねえさんがおらんとできんかった」
誰よりもアマを、そしてラグビーを愛するまゆみさん。近づく還暦もなんのその。まだまだみんなのために走り続けまっせー。