(撮影:松本かおり)
あの時のことを、合谷和弘は「忘れられない」と言った。
4月4日、東京・秩父宮ラグビー場である。男子7人制日本代表はセブンズワールドシリーズの第7戦、東京セブンズに参加していた。予選プールの3試合目の終盤。フランス代表を5点差で追っていた。自軍ボールを確保し、逆転のチャンスを得ていた。
グラウンドの中盤でパスを受けた合谷は、しかし、そのボールを前方に蹴り出してしまう。タッチラインを割り、ノーサイドを迎える。スランドからはためいきが漏れる。
後に本人は、確かに認めたのだった。球を継続したいチームスタイルを、球を継続すれば光が見えそうだった試合の流れを、すっかり忘却してしまっていたと。
「あの時は、自分だけの判断でやってしまった。大きく反省しています」
12日、流経大の4年生として第56回「YC&AC JAPAN SEVENS」に挑んだ。神奈川・横浜カントリー&アスレチッククラブを舞台とする、7人制ラグビーの国内大会として最も伝統のあるイベントである。外国人留学生の突破力も手伝い、チームは3年連続3回目の優勝を遂げた。「もう、YC&ACは最後だし、絶対に勝ちたかった。嬉しかった」。報道陣に囲まれたリーダー格は、笑顔を浮かべていた。しかし、自身のプレーにはあえて合格点はつけなかった。
――走りに緩急がついたのでは。
「きょう、ここではそういうことができたかもしれないです。ただ、世界を相手にそれをやるのはまだ…。(プレッシャーの高いなかで質の高い走りを繰り返せるよう)もっとフィットネスをつけないと」
8日前に苦味を知った合谷の、それが決意だった。
「(フランス戦は)一生、忘れられない試合になったと思う。2度とあんなことは起こらないと、自分では思っていて。それを(後ろ向きに)振り返っていても意味は無い。ただ、2度としないようにというだけです」
優勝した翌日から、代表合宿に参加。5月9日からは、グラスゴー(スコットランド)でワールドシリーズの第8戦を迎える。
(撮影:松本かおり)