55歳ながら社会人チームで現役を続けている選手を知っていますか?
大阪教員団の青木進さんです。周囲からは「レジェンド」と呼ばれています。日本大学ラグビー部出身で現在、大阪府立三島高校の体育教員、そしてラグビー部監督です。1960年(昭和35)2月2日生まれ。あと10日もすれば55歳になります。
所属する教員団はトップウェストBに所属。トップリーグから数えて上から4番目のリーグに属しています。今季は公式戦5試合中2試合にフル出場。3試合は学校行事や高校の試合のため、参加できませんでした。
青木さんは現役を続ける理由を話します。
「ボールを持って走ったら、スカッとします。それに人間的にいつまでも成長できる。痛い思いをして、ボールを守って味方につなげるのは『体を張る』という言葉の具体化ですから。足でまといになったら辞めます。でもまだ走れます」
現在は月水金の週3日1時間のトレーニングを義務付けています。内容はシャトルランやウエイトなど。終了後は肩で息をする激しさ。隔日なのは疲れを残さないようにするため。
食事は野菜中心。プロティンは日に3回飲みます。体調管理には人一倍気を使っています。
チームメイトで京都産業大学出身、36歳の岡本吉隆さんは言います。
「プレーはキレキレ。一生懸命やってはる。僕らの憧れであり目標です」
教員団は1980年代、トップリーグの前身となる関西社会人Aリーグに8シーズン所属していました。1985年のリーグ戦では社会人大会や日本選手権で7連覇する神戸製鋼を34-14で破ったこともあります。
体育教員を中心に構成されているため、基本的に試合に来られる選手を軸にメンバー選考をします。その同好会的雰囲気も青木さんの現役続行を後押ししています。
「企業チームやったらとっくに戦力外通告を受けてるけど、それがないんです。自分の意志で続けられる。ありがたいことです」
プロ野球界では中日ドラゴンズの山本昌(マサ)さん、プロサッカー界では横浜FCの三浦和良(カズ)さんが現役最年長です。1965年生まれマサさんは50歳。1967年生まれのカズさん48歳になります。プロスポーツの一流選手との比較は難しいかもしれませんが、ラグビー界の55歳・ススムさんは2人と比較しても光ります。
48歳だった2008年には全日中法専四大学対抗の全専修大学戦に全日大のFBとして先発出場。折しも全専大は村田亙さん(現監督)の引退試合も兼ねていました。日本代表キャップ41を誇るSHは40歳。ところがメンバー発表で青木さんの名前が告げられるや、スタンドからは歓声が起こりました。主人公は村田さんから青木さんに移り、記念とねぎらいのための試合はぶち壊しになった、という都市伝説があります。
その他、尋常ならざる話には事欠きません。
(1) 大阪の中心を流れる淀川を電車で渡っていた人が河川敷で一人でセービングしている男を発見。よく見たら青木さんだった。
(2) 3年前、自転車で坂から落ちて、首の骨を折る大ケガ。その際、ドクターからの説明は、「ご家族のみなさん、残念ながらラグビーは続けられます」
(3) 茨木市内の広大な宗教施設で選手と練習の一環として鬼ごっこ。またたくまに全員を捕まえた。
青木さんは豊中市立第七中学校でラグビーを始め、府立池田高校から日大に進みました。165センチと小柄ながら、スピードあふれるFBとして活躍。大学4年の1983年度には第20回大学選手権出場を決める交流戦の慶應大学戦で15-14となるサヨナラPGを決め、日大を4回目の選手権に導きました(1回戦で京都産業大学に4-22で敗北)。1985年に大阪府教員に採用され、4校で教鞭を取り、昨年、三島高校に赴任しました。
同校は日本代表キャップ32のLO木曽一さん(現日本IBM)を輩出しましたが、新チームになった今は部員が3人。今月から始まった新人戦は合同チームで10人制大会に参加します。その状況で、ラインに入れる青木さんの存在は大きいのです。
主将の有田鴻助君は言います。
「先生はとても元気だし明るい。トレーニングは楽しいし、刺激を受けます」
奥さんの百合子さんは声をかけたそうです。
「ここまで来たら定年まで頑張って」
青木さんもそのつもり。
「60歳までやって行けそうな気はしています。40代はグラウンドのタテを走ったら足がもつれる感覚の時もあったけど、今はありません。やったらできる」
ラグビーのガソリンは「ジョッキ10杯はいける」ビール。飲みもパフォーマンスも、まだまだ若手には負けません。
55歳は「GO・GO」。青木さん、いつまでも楕円球を追いかけて下さいねー。
【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。