丸みを帯びた背中に、気迫を宿した。
0−0で迎えた後半6分頃、敵陣ゴール前右中間で相手ボールスクラムに臨む。「まとまって押そう!」。3年生のフロントロー同士で声を掛け合い、相手の塊をめくり上げる。自軍ボールを獲得し、叫ぶ。1分後には先制点が生まれた。
30日、大阪・近鉄花園ラグビー場は第2グラウンドでの全国高校ラグビー2回戦。佐賀・佐賀工高(33年連続43回目出場)の「3」をつけるPR古川翼が、要所のスクラムで存在感を示す。「1」のPR鴨川達哉、「2」のHO黒尾丸泰地とともに秋田・秋田中央高(3年ぶり9回目出場)を手こずらせ、19−3での勝利に貢献した。
互いにタイトな守備を繰り出し、スコアレスで迎えた当該の場面。
相手ボールとはいえ、PR鴨川は「チャンスだ」との思いを抱いていた。大会を通じ、チームのお家芸であるスクラムに確かな手応えを掴んでいたのだ。
そしてPR古川だ。南北海道・札幌山の手高(15年連続15回目出場)との1回戦(○34−14)でも、自身の側からスクラムを押し続けていた。このシーンでも、具体的なイメージを思い描いていたという。
「1回戦は(自分たち両相手PRを)外に切ってくるスクラムでしたが、秋田中央はイン(佐賀工高のHO黒尾丸の位置)に向かって組んでいる」
試合中、対策法を見つけていた。秋田中央高に似た「イン」の組み方を意識すれば、対面を苦しめることができたのだ。ターニングポイントとなった1本でも「イン」を貫き、結果、ターンオーバー決められた。7分、同じ場所での自軍ボールスクラムから佐賀工高は左に展開。最後はCTB古賀海地がトライを挙げ、ゴール成功と相まってスコアは7−0となった。
終始セットプレーを安定させたPR古川は、満足げに振り返った。
「先制点に繋がったということで、よかったと思います」
高校でラグビーを始めた。成章中野球部でレフトを守っていた頃、顧問の教諭に「サガコーに入るならラグビーをやってみろ」と薦められたからだ。いずれにせよ入学するつもりだった同高の門を叩くと、ラグビー部の過酷な練習に面喰った。
「とにかく走りこみの練習が多かったので、きつくて、途中で抜けたりもしていました…」
しかし、持ち前の押しの強さを活かして2年時からベンチ入り。身長173センチ、体重115キロの体躯を低く沈めるスクラメイジャーとして矜持を抱いている。
「でも、練習がだんだん練習について行けるようにもなった。スクラムは誰にも負けたくない。相手が大きかったら、自分たちがそれよりも低く組む」
今季からチームは、佐賀県総合グラウンドで活動するクラブ「ラン・ラン・ラン佐賀」の駅伝部の練習に約週2回ほど参加。これでPR古川は、課題だったスタミナ不足も克服しつつある。
2015年1月1日の3回戦では3〜4月の全国選抜大会(埼玉・熊谷ラグビー場)を制した福岡・東福岡高(15年連続25回目出場)とぶつかる(第3グラウンド)。PR古川は卒業後、就職する。各年代の国内最高峰クラスでプレーするのは、この花園が最後だ。静かに燃える。
「チャレンジャーの気持ちを忘れず、しっかり倒したいと思います」