すべてを出し切ってシーズンを終われるチームがどれだけあるだろう。
花園初出場を果たした近大和歌山高校は、そのひとつになった。12月28日(全国高校大会2日目)、花園第3グラウンド。同校は、同じ初出場の高岡第一高校と対戦し12-15と惜敗したけれど、試合直後の選手たちの表情は清々しかった。
前半を0-10とリードされた近大和歌山。しかし、まったく下を向いてはいなかった。これまで積み上げてきたものを出し切るだけ。HO河内映樹主将を中心に、チームはラスト30分にすべてを出し尽くす覚悟でピッチに飛び出た。
後半11分、相手ゴール前のスクラムからFL岡本慎矢が左スミにトライ。キッカーのFL唐門佑が難しい位置からのコンバージョンを決めて7-10と追い上げた。その4分後にはNO8美崎正次の快走から好機をつかみ、ゴール前ラインアウトからモールを押す。HO河内主将がインゴールに飛び込んで12-10と逆転。残り4分、高岡第一にトライを奪われて逆転負け(12-15)したが、試合後の選手たちには大きな拍手がおくられた。
「うちのラグビーを出せた。持ち味を出し切れたら、結果がついてくるという気持ちで試合に臨みました。すべてを出せたのですから、もやもやしたものはありません。選手たちも同じ気持ちでしょう」
田中大仁監督はそう言った。教え子たちのことが誇らしかった。
以前はいた2年生たちは、勉強や進学との兼ね合いでラグビーをやめてしまい、10人の3年生と14人の1年生だけのチーム(県予選時は1年生=10人)。4人の女子マネージャーとともに、コツコツと努力を重ねて来た。例年なら3年生も受験を控え夏前に部から離れるが、今年は「新人大会で熊野高校に1点差で敗れたリベンジを果たそう」と話し合い、最上級生たちが最後まで在籍(途中で一旦部から離れた2人も最終的に復帰)。河内主将は、「新チームになったとき近大和歌山の歴史を変えよう、和歌山の(高校ラグビーの)歴史を変えようとスタートしました」と話し、「前半にもっとディフェンス出来ていたら…。でも後半の30分は自分たちらしく楽しむことができた」と胸を張った。
花園予選の決勝では和歌山工と引き分け、抽選の末に足を踏み入れた地。そこで存分に走りまわったNO8美崎は、「和工の人たちに『俺たちの分まで頑張ってきてほしい』と言われました。その言葉も力になりました」と話した。
自分たちだけでなく、地元の人たちの心も満たす60分だった。