細胞があるとかないとか、本当は耳が聞こえるとか聞こえないとか、景気が良くなっていると言い張りたいとか言い切れないとか、あれも秘密これも秘密とか、といった調子で、曖昧な雰囲気のなか無茶な言い訳が成り立ってしまいそうな年の瀬。
以下、山積みのノートやUSBを埋める音声データを通し、2014年の日本ラグビー界を振り返る。こちらでは、玉虫色の回答やべらんめえ口調にも発言者の心が明確に示されていますね(順不同、敬称略)。
1.「昔より、負けん気は弱くなっているかもしれないです」(パナソニック、ハイランダーズ/SH田中史朗)
ファンならご存知、南半球最高峰スーパーラグビーの日本人選手第1号である。「昔といまと、変わらぬ気質は」との問いかけに「負けん気」と応じ、間もなく訂正。「いまは、日本ラグビーのためにという責任感の方が強いかもしれないです」。とはいえ、日本代表とパナソニックでともにプレーするSH内田啓介は、定位置争いの相手である「フミさん」を「ライバルを倒そうとする気持ちが強い」と評している。
2.「大事なことは、どうやって教えるかを学ぶこと」(ニュージーランド代表/マイク・クロン コーチ)
3.「コーチの仕事は、選手が自分たちで考え、答えを見つけることを手伝うこと」(パナソニック/ロビー・ディーンズ監督)
12月上旬、パナソニックのアドバイザーとして群馬県太田市に訪れた折。関東近辺の大学、高校の選手や指導者を集めてコーチングセッションを行った。
2日の午前練習後は、グラウンド近くの「スターバックスコーヒー イオンモール太田店」で参加者のコーチのための「質問会」を開く。かつてはオーストラリア代表を率いたディーンズ監督も参加し、指導論を展開する。
「いままで私が参加したコーチングセミナーでは、戦術や戦略などを教えるものがほとんど。それも悪くはない。ただ、大事なことは…」とクロン コーチが語り、それにディーンズ監督も呼応する。知識が豊富なことと発言に説得力があることは別物だ、ということか。
4.「油断などはしていないですけど、自信はあります」(帝京大/SH流大主将)
前年度の大学選手権決勝を控え、帝京大は「対抗馬が極端に限られた優勝候補」のオーラを帯びていた。「俺たちが負けるわけはあるまい。本当はそう思っていませんか」との質問に、当時3年生の中核が迷わず回答する。負けない人間の脳みそは、大抵、こういう仕組みになっているような。1月12日、いまはなき東京・国立競技場。早大を41−34で制した。
今年度は主将として、6年連続の大学日本一を目指す。何よりその後の日本選手権で、国内最高峰であるトップリーグのチームに勝とうとしている。「トップリーグをターゲットにしているので、そのレベルでプレーしたいと思っています」。秋に語った、今季の基本方針である。
5.「そこに、皆(チームメイト)が気づいて欲しいですよね。ワセダにしかないものを」(早稲田大/FL布巻峻介副将)
件の決勝戦で、早大は終盤に猛追撃を図る。後半15分に10−34と離されながら、28分には29−34と点差を詰めた。当事者の実感はどうか。「いや、点差以上の差はあったよね」。私的な空間でつぶやく。「実力差がある相手と接戦ができたのはなぜか」との問いには、間髪入れずに「そこに、皆」と示した。
今季の大学選手権。王座につくには「ワセダにしかない」という「そこ」の発露が必須条件となりそうだ。
6.「日本代表からいつ外されてもおかしくないと、一瞬、一瞬を大事にしてきた。その結果がいまなのかなと思います」(東芝/LO大野均)
5月30日、東京は秩父宮ラグビー場。テストマッチ(国同士の真剣勝負)への最多出場記録を「82」に塗り替えた直後、テレビカメラを前に話す。記録された映像は日本スポーツ界の重要資料。
7.「そこの部分に関しての質問は、これ以上ないと理解しています」(日本代表/エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ)
12月8日、都内の総括会見で緊張感が走ったのは、WTBクリスチャン・ロアマヌについての質問が出た時である。
2009年のドーピング違反により国内公式戦での出場資格が無期限停止となっていた元ジャパンが、処分を解除された。現在は欧州にいるWTBロアマヌの代表復帰の可能性について、指揮官は「遠ざかっていた、我々のしたいラグビーを理解していない選手が急に入るのは難しい。ただ、何が起こるかはわからないということはあります」と言葉をひねる。
続けて当方が「ロアマヌ選手の件で補足…」と挙手するや、「そこの部分の…」。別な質問には真摯に熱弁をふるったが、当該の件については関係者を通じ「時期が来たら自分から話す」。2015年1月5日、公の場に姿を現す予定だ。
8.「間違ってもいい。喋れ!」(高岡第一高/吉田治夫監督)
全国的には発展途上とされる富山で、アタッキングラグビーを提唱する。夏休み中、「守備ラインを作り、揃って前に出る」という練習を重ねるなかで部員たちに伝える。緻密に連携を取り合い、「アップ」という大きな声とともにタックルするよう意識付けたかった。「富山県なら、相手はそれだけで慌てる」とも。結局、全国高校ラグビー大会への初出場を決めた。大阪・近鉄花園ラグビー場での1回戦を28日に控える。
強豪校の合同練習会や都内で開かれる世界的指導者のセミナーに足繁く通い、机周りにはラグビー関連の書籍、DVDを並べる。「自分から先んじて勉強しないと」。東京は府中のサントリーの本拠地グラウンドでは、関係者の承諾を得てヤグラの上で練習を撮影したこともある。「それは自分にとっての息抜きになっています」。本当の意味での「ラグビー好き」とは、こういった人を指すのでは。
9.「自分が一番かわいいってのは、誰だって一緒なんだから。そこの本質は変わらないと思うよ。あなたは違うの? そう。自分がかわいいでしょ。自分が何とかなりたい、成り上がりたい、いい暮らしがしたい。皆、そう思って生きているんだから。俺だってそうだよ。ここまでなれるとは思ってなかったけど。いまの子たちがどうだというのは学校の先生が言ったのであって、大東文化に来たらそうじゃないだろうと」(大東文化大/鏡保幸特別顧問)
大型ランナーを揃えて注目度を高め、関東大学リーグ戦1部で開幕4連勝を果たした大東大。11月3日、今季初黒星を喫す。東京八王子市の上柚木陸上競技場で、それまで暗中模索の感があった中大に24−33と敗れた。
試合後、鏡特別顧問が落ち込む部員たちを座らせる。「相手がどういうチームであれ、キックオフと同時に自分たちの力をダン、と出さないと勝てないんだ」。1981年から2001年まで監督を務め、大学日本一になること3回。きっと自らの勝負勘に基づき、訓示する。
解散後、テンポの速い語り口でその心を説く。「楽な方向へ進みたいというのは、まぁ、誰でもあるじゃない? でも、先々のことを踏まえると、そういう考え方をするのはもったいないよって」。話題が「安定志向にあるとされる現代の若者の気風」に転じると、「本質は変わらない」と断言したのだった。我欲があることを真っ向から認める。中途半端に「謙虚さ」を打ち出すよりも、かえって潔く映る。痛快。
10.「思っていましたよ。結構、チームのためにやるというのは嫌いじゃないし」(パナソニック/WTB山田章仁)
このほどスーパーラグビーのフォースと契約した国内楕円球界の華。7月某日、都内某所の喫茶店の会議スペースにて単独取材に応じる。
日本代表としての思いを「国を背負って戦うので負けてはいけない。代表になるとそれは改めて思います」と語り、「自分がそういう気持ちになると思っていましたか」との合いの手にもすぐに頷いた。「好き」とか「しなければならない」ではなく、「結構、嫌いじゃない」。しばし恥じらいの気持ちを表すからか、近くの人には決して嫌われない。
2015年も、色彩ある言質に触れられますよう。
【筆者プロフィール】
向 風見也(むかい・ふみや)
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)。