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大阪桐蔭高校 全員ラグビーで下剋上を狙う!

2014.12.11

 昨年のエースたちは去った。今年は個人ではなく組織で大阪桐蔭高校は3年連続9回目出場となる第94回全国高校大会を戦う。

 ジュニアジャパンのFB岡田優輝(帝京大学)、高校日本代表のPR垣本竜哉(帝京大学)、LO中村大志(筑波大学)、ヒザのケガがなければ代表入りが有望だったSO喜連航平(近畿大学)…。キラ星のごとく選手はいた。彼らは選抜優勝、全国大会Aシード、そして4強入り(準優勝の神奈川・桐蔭学園に0−43)とチームに初タイトルを運んできた。
 今年、高校日本代表候補はPR三竹康太のみ。主将のNO8貴島拓冬(たくと)は言う。
「個人の能力では劣ります。でもそこはチーム力でカバーしたい。ウリは組織的なアタックとディフェンスです」

 一体感ある攻撃は大阪府第三地区決勝でも見られた。相手は2年ぶり34回目の出場を目指す常翔学園。大阪では全国をもっとも多く知る強豪に相手が自信を持つモール、スクラム戦を挑み、勝利を手繰り寄せる。
 10−12の後半ロスタイム、ラックからモールに移行して10人で押し込む。コラプシングで得たPGをCTB藤高将が決め、?サヨナラ勝ち?する。
 監督の綾部正史は笑顔だった。
「チクシやゴセのモールのお蔭です。なかでもチクシには組み上げ、バインド、人数のかけ方などすべてが参考になりました」

 福岡県立筑紫高校とは今年4月のサニックス・ワールド・ユース大会の11・12位決定戦で対戦。19−28で敗れた。
「チクシはラックからモールの組み上げ方を分析しただけで3種類持っていました。ピックした選手がそのまま後ろを向きボールをもぎとる基本形に、ボールを持った人間が外にボールを見せてずらす形、さらにリッパーと一緒に、ボールを持っていた人間が前を向いて作る形。とてもよく考えられていた。それを勉強させてもらいました」
 敗戦から得た教訓を形にする。
 奈良県立御所実業高校には年数回出げいこに出掛ける。高校ラグビー界では定評がある御所実の組み方もまた学びの対象だった。

 モールは桐蔭にとって今年の最重点ポイントだった。主将の貴島は振り返る。
「ラインアウトは30分の朝練習で合わせます。夕方の練習ではそれをベースに1時間近く組んだりしました」
 ラインアウトモールは繰り返しの練習で強化できる。昨年の先発は全員が3年生。経験、センスを併せ持った最上級生が抜けた桐蔭にとって、このアタック選択は必然だった。

 モール同様に密着プレーとして、その強化は相関関係にあるスクラムも押し切る。常翔戦では3−5の後半17分、ターンオーバーを起点にHO岩井響がトライした。こちらの8人の組み合いはモールに比べれば時間を割いていない。それでも貴島には確信がある。
「春先から自信を持っています」
 綾部は理由を答える。
「去年の連中の台になっていましたから、そう時間をかけなくても強いのだと思います」
 垣本を右PRに置き、左PRは渡邉彪亮(立命館大学)、HOは赤壁尚志(関西学院大学)が並んだ。3人とも国体のオール大阪。松尾銀太、前田賢吾、そして三竹のフロントローは一年上の先輩たちに磨かれた。

 組織的な防御に関しての印象は薄い。府予選3試合を通しての失点は19。第一地区の大阪朝鮮高級学校が21、第二地区の東海大学付属仰星高校が14と3チームともそう変わらない。
 合同練習や練習試合をよく組む大阪朝高の部長兼コーチ、権晶秀(こん・じょんす)は桐蔭を攻撃主体のチームと見る。
「ウチが試合をする時には能力の高い子が多いので、相手のアタックにどう対応するか、を考えます。ディフェンスをどうするか、とはあまり考えません」
 その上で権は「ただし」と続ける。
「常翔戦は両CTBにつめていましたね」
 常翔の両CTB南翔大と高橋汰地(だいち)は10月の長崎国体で優勝したオール大阪の主力メンバー。その2人には外から内へ素早く寄り、スペースを消した。相手によってシステムをマークにしたり、流したりできる順応性、そしてコンタクト能力は備えている。

 今夏、野球部は第96回選手権大会で春夏通算5回目の優勝を果たした。クラブ活動を重視する同じ3類に籍を置く貴島たちは決勝を除く5試合に甲子園球場を訪れ、スタンドから声援を送った。綾部は話す。
「野球部の活躍は刺激になっています」
 今年、桐蔭はAから下がったBシード。順調に行けば1月1日の3回戦では同じくBシードの国学院大学久我山高校(東京第一地区)と対戦する公算が高い。
 貴島は言葉に力を込める。
「今年のチーム・スローガンは『昨年の成績を超えよう』です。下剋上(げこくじょう)を起こしたいですね」
「下剋上」。500年前、戦国時代に出来上がった言葉とされる。広辞苑(岩波書店)は「下位の者が上位の者の権力や地位をおかすこと」と載る。大阪桐蔭は全員ラグビーで強者を倒し、未知の4強戦突破に照準を定める。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

(写真:モールで押す白いジャージーの大阪桐蔭/撮影:早浪章弘)