ラグビーリパブリック

ラグビー盛んな北河内の実力校 枚方市立さだ中学校

2014.11.21

 北河内という地域をご存知か?
 大阪の街を貫く淀川の京都寄り左岸。枚方、交野、四条畷、大東、寝屋川、門真、守口の7市が含まれる。この地区は高校の全国大会出場校が多い。私立では東海大仰星、大阪桐蔭、常翔啓光、同志社香里。公立では牧野、四条畷、淀川工科、守口である。
 中学ラグビーもまた盛んだ。1、4、10月の年3回、北河内大会が開催される。12人制ではなく15人制を公式に採用しているのは全国でこの大会だけである。

 その北河内で公立ながら実力校の一つに数えられるのが枚方市立磋跎(さだ)中学校だ。18チームが参加した10月開幕の北河内大会では強豪・同志社香里中学校を22−10で破り、決勝に勝ち進んでいる。
 監督は同中OBで35歳の体育教諭、黒田義則である。敗れた同志社香里中、高監督の清鶴敏也は「公立なのによく頑張っている」。全国高校大会のシード委員長を務める清鶴も認めるチーム作りを黒田は話す。
「環境はかなり厳しいですが、その中でどうやっていくか、を考えています」
 放課後の校庭は他クラブとの併用のため、少ない時は週2回、ラグビーグラウンド半面の大きさしか使えない。練習は4時スタート。11月からは完全下校が5時45分から5時に早まるため、実質の練習時間は45分ほどになってしまう。
 絶対的な練習量確保のため、朝7時30分から40分間の朝練をする。グラウンドが使えない放課後は学校の周囲を走り、空きスペースでモールなど場所をとらないユニット練習をこなす。
 モールはさだ中学校の大きな武器である。準決勝でも7−5の前半17分、ラインアウトから約30メートルをドライブして相手インゴールを割った。3、3、2の動きでできる縦長の塊りはその組み上がりの早さや形などトップリーグと重なる。黒田は微笑む。
「モールにはこだわりがあります。最高の攻撃やと思っています。崩したら反則やし、横からは入れない。そして前に進めますから」
 練習環境の不利を逆手に取ったトライパターンは指揮官の好みともマッチする。

 さだ中の創部は1984年。今年で30年目を迎える。5月の府大会優勝など華々しい実績はない。主なOBには日本代表キャップ4を持つ神戸製鋼SH兼プレイングコーチの佐藤貴志がいる。
 部員数は3年10、2年14、1年15の計39人。地元の枚方ラグビースクールから経験者が入ってきたりするものの、基本的には初心者が多い。青い体操着の上下で練習している部員も目立つ。反復で強化できるモールへの特化は経験者不足を補う手段でもある。

 黒田はさだ中を1995年に卒業し、仰星から東海大学に進んだ。同大大学院卒業後、枚方市の体育教員に採用され、楠葉中学校を経て母校で今年6年目を迎える。
 東海大時代は中学生とそう変わらない体格ながらHOとして、当時大学ラグビー界を席巻していた関東学院大学と戦った。2学年下で日本代表になる山村亮(ヤマハ発動機)、山本貢(キヤノン)を向こうに回してスクラムを組み続けた経験もある。

 高校、大学で2学年下になる仰星監督・湯浅大智の尊敬は今でも続く。
「黒田さんは選手としてもよかった。でも僕が特にすごいなあと思う点は『常に中立』という立場を崩さないことです。高校時代からどんな時も偏った見方はしない。だから逆に信用できる。そしてそれは生徒指導の観点からも大切なことだと思います」
 湯浅が評するように、日々の黒田はラグビーを偏愛しない。学校生活を基本に据える。主将のNO8隈本添太は3年生になって各クラス、学年の体育委員をまとめる体育委員長になった。3年間を振り返る。
「よかったのは人間性が磨かれてきたことです。先生はよく『あいさつをしっかりしなさい。学校の代表になりなさい。学校生活を大事にしなさい』と言います。先生のお蔭で3年生になって少しはそんなことができるようになってきたかな、と思います」
 隈本は取材に呼ばれるや、着替え途中にも関わらず、裸足で土のグラウンドを駆け足でやってきた。そして直立して手を前に組み、笑顔で質問に答えている。

 黒田は進路に関しても特定のチームに肩入れしない。現3年生の主力の進学先は母校・仰星だけを優先させない。京都成章高校、島根・石見智翠館高校などに散らばる。選手特性や家庭環境を考えた上での総合判断で生徒に学校を薦めている。

 ラグビーの強化と学校生活の両立を図る黒田率いるさだ中。北河内大会の決勝戦は11月22日(土)午後3時キックオフで同志社香里のグラウンドで行われる。相手は高校時代の恩師、土井崇司(現東海大テクニカル・アドバイザー)が作った東海大仰星中学校。勝っても負けても3年生引退となる一戦は、同時に理想の実現に向けた戦いでもある。

(文:鎮 勝也)

ミーティングで話すさだ中学校の黒田義則監督

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

(トップ写真:同志社香里中戦後、ミーティングをするさだ中学校)
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