「めっちゃめちゃおいしいでー。おかずは多いし、しろめしに具のぎょーさん入った味噌汁が食い放題や。そんなん大学でありえへんやろ。ほんまびっくりやで」
今季、関西大学Aリーグに復帰した摂南大学の食事を振る舞われた「浪速のおっさん」は言うでしょうね。「摂南飯」は学生ラグビー界で屈指の美味、豪華、栄養満点、そして低価格。10月5日、京都産業大学戦からはじまるシーズンに「食い勝ち」を挑みます。
夏休みが終わり、授業の始まった9月16日(火)の練習後の夕食も素晴らしい。
品数は5。かぼちゃ、なすび、オクラ、ビーフがたっぷり入った「夏野菜カレー」、「トンカツの南蛮漬風」、ジャガイモや緑黄色野菜の入った「スペイン風オムレツ」、たまねぎ、ニンジン、豆腐の入った「味噌汁」、「サラダ」もつきます。それだけではありません。サイドにはキムチ、納豆、梅干、味付け海苔が控えています。部員ではなく、学生食堂(学食)が作ってくれるから味もバッチリです。
実はこの内容は普通に毎日続きます。特別ではありません。そして摂南大の食卓では、某テレビアニメの昔話に出てくるような激山盛りのどんぶり飯が当たり前です。キャプテンのLO溝尻将己君は言います。
「すごくおいしいです。味付けは家のご飯よりも薄味で……」
スポーツマンの食事でも濃い味ではありません。その辺のファミレスやファストフードよりは塩分控えめに作られています。
トンガからの留学生、FLのフェツア二・ラウタイミ君もペロッと食べます。
「トンガのご飯よりもおいしいです。向こうに帰った時もしばらくしたらここのご飯が食べたくなります」
「摂南飯」はインターナショナルですね。
始まったのは5年前の2009年。前年度、初出場の第45回大学選手権で帝京大学に7−55で大敗しました。その時、元日本代表NO8でもある河瀬泰治監督は驚きます。
「夏に練習試合をした時よりも帝京の体が倍も3倍も大きくなってたのよ。聞いたら食事やと言う。それでウチも取り入れたんやね」
河瀬監督は学生食堂の管理栄養士・古野幸子さんや大学と交渉を重ねた結果、朝晩2食で700円という安値を実現できました。学食を大学側が直で経営していたことでマージンを安く抑えられたのが理由です。学食だけに「安心、安全」もテーマ。食材は国内産にこだわり、冷凍、レトルト食品や添加物、保存料も使いません。すべて手作りです。
朝、夜2部練をする春から夏までは練習後すぐに2食が出ます。朝のメニューも白飯、味噌汁は食べ放題。そこに夜のサイドや卵焼き、鶏の唐揚げなどが並びます。
シーズン中は疲労蓄積を避けるため朝練習がなくなるので、夕食の1食になります。内部昭彦コーチは笑います。
「栄養が一番吸収される練習後30分以内のゴールデンタイムに食べさせるようにしています。ただ栄養価が高いので学生と同じように食べていたらすぐ5キロ太りました」
1日の摂取キロカロリーは5000が目標。成人男性の倍以上ですね。1食の場合、古野さんは2500〜3000を目安に献立を作ります。たんぱく質を筋肉変換時に必要なミネラルを多く含む野菜は1日400グラム必要ですが、1食で250は摂れるようにしています。
古野さんは選手以上に気合が入っています。ほぼ毎日練習見学。長野・菅平の夏合宿にも参加しました。トレーニング内容を前もって聞いてメニューを考えます。レパートリーは多く、ほとんどかぶりません。
「試合前は炭水化物を多めにしたり、トレーニング期はたんぱく質に重点を置きます。食べ終わった後に『おいしかった』と言ってもらえるのがうれしい。今年は東京に連れて行ってほしいですね」
「食育コーチ」は関東での試合の可能性がある大学選手権出場を望んでいます。
今はこの食事を3食すべてに広げられないか検討中。ラグビー部寮の設置も含め難問です。しかし、2年ぶりのAリーグで暴れて、古野さんの希望通りに秩父宮あたりで試合をして、大学側にアピールしたいですね。
最後に、中学、高校、大学生に「浪速のおっさん」から伝言があります。
「食べることもラグビーのトレーニングやでー。お小遣いは携帯やゲームに使わんと、食費に使いや。今や死語の『エンゲル係数』120を目指すんや! ほんで将来、ジャパンを引っ張ってやあ。頼むでえー」
【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社、14年10月発売予定)がある。