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【現地リポート】福岡堅樹、テストマッチで厳しいレッスン。確かな1ピースへ

2014.06.16

fukuoka usa

痛恨のインゴールでのノックオンに落ち込むWTB福岡(左)と慰めるWTB山田
(撮影:出村謙知)

「経験は人生で最も厳しい先生だ」(エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ)
 恐らく、ここまで落ち込む出来事もそう多くはないだろう。
 悪い意味で何年も語り継がれてしまうプレー。それが、ジョーンズHCも「スピードはワールドクラス」であることを認めるWTB福岡堅樹のアメリカ戦での「テストマッチでやってはいけないプレー」(同HC)だった。

 計13日間に渡って滞在したカナダ・バンクーバーでのトレーニングでもボールを持った時の加速度は抜群。痛めていたヒザも良くなり、仮に藤田慶和の負傷離脱がないままに先発復帰したとしても誰も異議を唱えなかったと断言してもいい程、福岡の状態は上々に見えた。
 日本代表のテストマッチとしては実に7か月ぶり。15人制の試合という意味でも2月の日本選手権以来の実戦となったアメリカ戦。
 ファーストタッチでは久しぶりのテストマッチレベルの相手との間合いを確かめるようにスペースない場所で勝負してタッチに押し出されたが、15分にWTB山田章仁、CTB田村優などの好判断からできたチャンスに再び左サイドでボールをもらうと、注文通りに相手DFを振り切って悠々と米ゴールへ。
 いわゆる“たられば”になるが、そのまま普通にダウンボールしていたなら、試合の流れは全く違うものになり、ジャパンはもっと楽に勝利をものにしていた気がするし、そうなれば当然この記事も同じ主人公による全く主旨が異なるものになっていたはずだ。

 2004年のイタリア戦での大畑大介、記憶に新しいところでは、今年の香港セブンズでの橋野皓介、あるいは東海大学時代の豊島翔平などが持つ苦い記憶と同じ種類の経験をしてしまったということになるのだろう。

 それは、スピードに自信があり、なおかつクレバーな福岡だったからこその判断ではあった。
 背後から追ってくる相手の存在を感じながらも、よりゴールキックの確率を高めるために中央に向かう走りを止めなかった福岡の腰に米CTBフォラウ・ニウアが追いすがるように腕をかけると、ボールは手からすり抜けてポロリ。
 まさかのインゴールノックオンで復活の狼煙となるはずだったトライは幻となった。

 動揺の表情を浮かべて立ち尽くす福岡を先輩WTB山田がやさしく抱擁。素早い球出しでトライチャンスをお膳立てしたSH田中史朗も笑顔で駆け寄る。
「大学のラグビーをしている選手がテストマッチを経験することはとても大きなステップアップ。テストマッチでやっていいこととやってはいけないことを学ばないといけない」(ジョーンズHC)

 もちろん、やってはいけないミスをおかしてしまった福岡の心理状態が通常とは違うものだったことは想像に難くない。
「最初のミスを何とか取り返そうとして気負い過ぎたところがあった」
 しかも、ひとりの微妙な変化が全体に影響を及ぼすのがラグビーの怖いところ。
「DFの部分ではブランクもあって、もう一度、低く入るところとか、ホールドするところなど、やり直さないといけない」
 試合後、本人が反省の弁を述べたDF面のミスが相手の右WTBに3トライを許すことにつながる直接的影響もあったが、あるいはそれ以上に大きかったのが全体のバランスを失ったBK陣から、この幻のトライシーンの時のような創造的なアタックが、以後、見られなくなったこと。

「今日はBKのプレーが良くなかった」
 試合後、ジョーンズHCはダイレクトにそう言った。
「歯車が狂ってしまった」
 もちろん、福岡の存在を念頭に置いたコメントではないことは断言できるが、BKリーダーのFB五郎丸歩バイスキャプテンも、素直にそう認めた。

 幸いだったのは、バランスを失ってさまよい始めたBKの状態を冷静に判断しながら、自分たちの強みにこだわって、勝負をものにする力を持つようになるほど、エディージャパンのFW陣がたくましい存在へと成長を遂げていたこと。
「BKがミスして、うまくいかなくても、FWで何とかサポートしようという話はしていた」(HO堀江翔太バイスキャプテン)
 具体的には、「最初から比較的いけるかなという感じだった」(PR畠山健介)というスクラムで圧倒して後半2トライを重ね、1999年のホノルルでの対戦以来15年ぶり、アメリカ本土でなら1998年ぶりとなるアウェー戦勝利をものにした。
「FWが頑張って勝ってくれたので感謝するだけです」
 その言葉の重さを噛み締めた21歳のスピードスターがテストレベルでの15分の1ピースとしてふさわしい存在となった時、エディージャパンは目標である世界トップ10入りへの階段をまたひとつ上がっているのかもしれない。

(文:出村謙知)

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